気が狂いそうになる現実。

 地獄の中をさ迷う毎日。


 大好きな家族を捜すために、私は壊れそうになる心を奮い起こす。


 私の心はズタズタだった。

 家族の死と向き合うには、あまりにも未熟だった。


 あんな無残な現場を見せられて、人の死を受け止めることが出来なかった。


 唯一、目視で確認することが出来たのは……小さな弟だった。


 弟は母に守られ目立った外傷もなく、奇跡的に焼死を免れていた。


 棺の中で弟はまるで眠っているみたいだった。すぐに起きだして『お姉ちゃん』と呼んでくれると思ったのに……弟は二度と私に微笑むことはなかった。


 その後、母はDNA鑑定で確認されたが、父は体の一部すら、発見出来なかった。


 ――生と死。

 神を恨み、運命を呪った私が、数年後看護師の道を進むことを選んだ。


 両親や弟にしてあげられなかったことを、病気や怪我で苦しむ人の力になりたい。


 それは正義感や使命感からではなく、自分だけがこの世界に生き残ってしまった後悔と懺悔の気持ちからだった。


 ――だけど……。


 どんなに我武者羅に働いても。

 どんなにたくさんの命と向き合うことができたとしてても。


 私の心にぽっかりと空いてしまった穴は永遠に埋まることはなく、暗闇を照らしてくれるはずの月は、悲しみの色に染まったまま涙の雫を流している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る