第90話

しばらくして…玄関の扉が開く音が聞こえてきて、颯斗が帰宅したことを悟った。



一度寝室の前を通り過ぎて、リビングに向かう颯斗の足音を聞きながら…静かに目を閉じた。



朝、微妙な空気のままお互い仕事に向かってしまったので…ちゃんと話し合いたい気持ちもあるが…今日はもう何も考えずに眠ってしまいたかった。




しかし、そんな私の願いが颯斗に届くはずもなく…リビングに向かったと思われた颯斗の足音がこちらに近付いてくるのが分かった。




ガチャ…っと、寝室のドアが開かれた音がして颯斗が入ってくる気配を感じて閉じていた目を開いた。




「菜々、起きてる…?まだ体調悪い?」



ベッドの横に腰をおろして、寝転んでいる私と目線を合わせた颯斗。心配そうに顔を覗き込んできては、ピタッと額に手のひらを当てた。




「……熱は、無さそうだな」




そう言って私の額から手を離した颯斗は、そのまま私の手を取って…ギュッと包み込むように握った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る