3



「河原先生……」

「…………」



 振り向かなくても分かる、その声の主。



「……溝本先生」

「少し、お話しませんか」

「だから……。もう解消させてくれと言っただろう。俺は話すことはない」

「……さっき、平澤さんとお話をしたんです。……聞きたくないですか?」

「は?」

「ほら、こちらへ」




 溝本先生に誘導され、宿直室に入った。


 思い返される、あの夏の日……。




「……で、平澤と何を話したって言うんだ」

「邪魔をするなって、お伝えしました。平澤さんが河原先生に近付いたから、私は貴方に関係を解消されたのです」



 そう言う溝本先生の目は血走っていた。少し不気味で、思わず視線を逸らす。



「……近付いたって言うけど、その様子いつ見たんだ?」

「見たというか、体育祭の係や文化祭実行委員です。両方とも河原先生が担当だなんて、狙っているに違いありません。女子1人ですし」

「それは言い掛かりだろ。……関係を解消したことに平澤は関係無い。俺がずっと前から考えていたことだ」



 そう言い放つと、溝本先生の目から涙が零れた。


 俺は数日前、溝本先生に関係を解消しようと告げた。

あの時は素直に受け入れてくれたのだが。時間が経過した今、それが平澤への怒りとなって現れているのだろう。


 その矛先が何故平澤なのかは、分からないが。



「私、河原先生のことが好きです。抱いてもらえて嬉しかったのに……!! どんな関係でも、河原先生と繋がっていたかった……!」

「勘弁してくれよ。最初はお互い性欲処理から始まっただろ。恋愛感情を持ち込まれると困るんだよ。俺にはそんなつもりは無い」

「酷いです……。こんなにも、河原先生のことが好きなのに……!!!」

「本当に勘弁してくれ」



 溝本先生に背を向けて宿直室から出ようとすると、背後から抱きしめられた。


 その瞬間、同じように背後から抱きついていた平澤のことが頭を過ぎり、溝本先生に対する嫌悪感を覚える。



「やめろ」

「嫌です」

「離せ」

「離しません」



 全然言うことを聞いてくれない。


「……」


 無理やり溝本先生の腕を離し、その場から移動した。


 泣きそうな表情の彼女を無視して、一言。



「本当に平澤は関係無い。俺たちの関係はおしまいだ」

「……」



 そう告げて、今度こそ宿直室を後にした。





 俺の対応は、溝本先生に対して酷だったかもしれない。




 けれどこれが、俺なりの“けじめ”だから───……。







(side 河原 終)







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