再集合

1



 多目的教室に行くと、既に1年と3年が来ていた。



「河原先生、こんちは」

「うっす」

「………マジか」



 見たことのある2人に、河原先生は脱力する。



「またこのメンバー?」



 そう、この2人。

 体育祭で一緒に得点係をした大川先輩と佐川くんの“川コンビ”だった。



「……何でこうなるんだ」

「面倒事は押し付けられるタイプっす」

「自分も。得点係の時も1番面倒な係でしたから。押し付けられました」

「というか、河原先生が嫌って人多いっす」

「そうですね。決め事する時、河原先生はどの係かを担任から聞き出すところから始まります」

「…………………」



 衝撃的な事実が発覚。どうやら河原先生は、他の学年の生徒から嫌われているようだ。

 意外な2人の言葉に、思わず私も目が点になってしまう。



「……」



 呆然と一点を見つめながら黙り込んでしまった河原先生。教卓に書類を置いて何かを考えていた。


 そして、少しだけ頬を膨らませながら……ゆっくりと口を開く。



「よし、決めた。お前ら以外、みんな数学の評定を1にしてやる」

「お……大人げないっすね」



 知らなかった事実に驚きつつ、拗ねてしまった河原先生の様子が可愛くて思わず頬が緩む。私が1人でニヤニヤしていると、川コンビは顔を見合わせて笑い、言葉を発した。



「俺は先生のこと好きっすよ」

「自分も。先生好きです」


 

 優しい川コンビ。拗ねている先生を慰めているのだろうか。そんな言葉に何故か私の頬が、より一層にやけてしまう。



「何だお前ら……。評定を下げはするけど、上げはせんぞ」

「先生……好き♡」

「気持ち悪いんだよ大川。数学補習させるぞ」

「絶対に嫌っす」



 河原先生と大川先輩のやり取りが面白い。既に一緒に活動を行っているからか、雰囲気は凄く良い。

 そんな3人の様子を微笑みながら見学をしていると、先生は空き席を指さして「そこ座りな」と私に言った。


 指示された場所は大川先輩の隣。

 そこに座って鞄を置くと、先輩がこちらを向いて話しかけてきた。



「平澤さんも押し付けられるタイプ?」

「……」


 首を傾げて河原先生に視線を送ると、小さく2回頷いた。指名されたことは隠し、肯定しろってことなのだろうか。なんて、そう思うも意地悪な私。


「河原先生が私にやって欲しいって、直々に指名したんです」

「え、指名!?」


 その言葉を聞き、教壇を降りてこちらに向かってくる河原先生。そして私の頭をチョップして、また戻って行った。



「いや、実は2年の実行委員な。ついさっき決めたんだ。俺が失念していたのが原因だが。もう決めている時間なんてなくて、体育祭でも平澤と一緒だったし。それで指名したってところだ」

「……河原先生も、抜けているところがあるんすね」

「先生、可愛いところあるじゃないですか…」


 何だかニヤニヤと楽しそうな川コンビ。河原先生は眉間に皺を寄せて頭を掻いた。



「うるせぇな……。ほら、さっさと始めるぞ」



 恥ずかしさなのか、少しだけ頬が赤くなった先生は、雑にプリントを配布した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る