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「………」




 号令が終わると同時に、颯爽と教室から出ていく同級生たち。文化祭実行委員の話題に触れぬよう、それはもう足早に去っていく。




「……菜都」

「あ、圭司……」



 最後、教室には私と圭司と、河原先生が残っていた。圭司は席に座ったままの私の元に、ゆっくりと歩み寄ってくる。



「菜都、大丈夫か。実行委員をやることによってまた体調崩したりなんかしたら……」

「前の体調不良は治ったから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」



 そう答えると圭司は少しだけ頬を膨らませて眉間に皺を寄せ、教壇に立っている河原先生の方を見た。



「河原……どういうつもりだよ。何で菜都なんだよ」

「……それ、お前に言う必要ある?」

「……」



 冷静な河原先生の返答。それに対して圭司は何も言えなかったようで、黙り込んでしまった。



「……」



 ふぅ……と小さく溜息をついた河原先生。眼鏡をクイッと押し上げ、私の顔を見る。



「平澤、会議は多目的教室でやる。ほら、行くぞ」

「……行くぞ?」



 河原先生の言葉に違和感を覚えた。行け、という指示ではなくて、行くぞ……とは。



「え、待って。先生も行くんですか」

「あぁ。俺が実行委員会の担当だ」

「えっ、嘘」



 河原先生の言葉に、思わず口を押さえる。想像すらしていなかった現実に、体が震え始めた。



「平澤、行くぞ」

「は、はい。け……圭司! またね!」

「あ……あぁ……」




 教室を出る間際、少しだけ見えた圭司の泣きそうな顔。そんな表情に複雑な感情を頂きつつ、それ以上に『河原先生が担当の文化祭実行委員』で、先生自身が私のことを指名してくれた。その事実が嬉しくて、胸が熱くなった。




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