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「……」


 初めてだ。

 初めて、今目の前にいる愛理のことが物凄く怖く感じる。


 力強く睨むような愛理は、呟くように言葉を発し始めた。


「私、圭司のことが好きなの。それでこの前告白をしたんだけど、菜都のことが好きって振られた。しかもその後、全く話してくれなくなったし、挙句の果てに圭司は陸上部まで退部したの」

「……うん」

「おかしくない? 何で私が避けられないといけないの? しかも圭司、菜都が1人の時を狙って話し掛けてるでしょ。……何でなの? 圭司のことが好きなのは、私なのに」

「……」



 少しずつ潤み始める愛理の目。思わず後退りをしてしまった。



「ずっと3人で一緒に居たのに、どうして圭司は菜都のことが好きなの? 私のことなんて眼中にも無い感じだった。もう、我慢できないの。圭司に無視されるのも、憎い菜都と“良い友達”を演じるのも……!!」

「………」



 後退りを続けていると、後ろにいた柚木先生にぶつかった。柚木先生は私の肩を両手で掴み、口を開く。



「渡津さん。口を挟んで申し訳ありませんが、平澤さんを責めるのは間違っています。その時の感情で大切なものを見失うのは、良くありません」

「……柚木先生、聞いても良いけど黙っていて下さい」



 睨みながらさらに近付いてくる愛理。次第にその目から大粒の涙が溢れ始めた。



「……今だって、柚木先生も菜都を庇う。結局みんな、菜都、菜都って……むかつく、むかつくのよ!! ……平澤菜都、お願い。邪魔だから、今すぐ私の視界から消えてよ」

「………」



 その言葉に、心臓が大きく飛び跳ねた。



 大切な幼馴染……だったはずなのに。

 愛理からそんなこと言われるなんて、全く想像もしていなかった。




「……っ」



 体が震え始め、涙が溢れた。

 抑えられない感情が全て悲しみとなって押し寄せてくる。



「う……うわぁぁぁぁぁん!!!」



 足から力が抜け、その場に座り込んだ。柚木先生はそんな私の肩を持って、何度も名前を呼んでくれる。



「平澤さん! 大丈夫ですか、平澤さん!!」



 耐えられない。無理、耐えられない。河原先生の件で既に傷心していた心は、いとも簡単に壊れる。溢れる感情が制御できなくて、子供のように泣き叫ぶ恥ずかしい自分。だけどそんなことを気に留めている余裕も無い。




「え、菜都どうしたの!?」

「あ……お母様……! すみません僕、佐倉北高校で教諭をしております、柚木と申します。実は……」



 騒ぎを聞き、家から出てきたお母さん。

 そしてそれを説明する柚木先生。



「……」



 愛理は横目で私たちを睨みながら、静かにその場を後にした。




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