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「……平澤さんは、河原先生のどこが好きなのですか?」

「え?」

「酷い対応をされ、傷付き、泣かされているのに。それでも河原先生のことが好きな理由は何ですか?」

「……」



 柚木先生の突然の言葉に、言葉が出て来なかった。


 好きな理由、それはもちろんある。

 ただ適当に好きでいるわけでは無いのだから。


 だけど、今ここでは言えない。



「……」



 何も言えずに黙り込んでいると、信号で停車したタイミングで先生の左手が私の頭に伸びて来た。何度も何度も、わしゃわしゃと頭を撫でられる。



「……先生」

「僕は、元気いっぱいで、勉強はできないけど真面目で、運動も苦手で、草抜きが上手な平澤さんが好きです。教師失格だと思います。それでも、気持ちが抑えきれませんでした」

「……え?」



 信号が変わり、先生は私の頭から手を離して再度車を発進させる。



「一度貴女に、“先生で、かなり年上だから河原先生は止めといた方が良い”と言いました。すると貴女は “人を好きになるのに、立場や年齢って関係ないと思います”って言ったじゃないですか。……その言葉が酷く刺さりましてね。それで僕、目覚めました」

「……」



 確かに、言った。

 けれどまさか、その言葉が柚木先生に刺さっていたという事実に驚きが隠せない。



「河原先生で傷付く平澤さんを見たくない。最近、元気いっぱいだった貴女に元気が無いのですよ……。貴女が傷付き涙を流すくらいなら、僕は自分の想いを伝えて貴女を僕の方に振り向かせる。そう決めました」



 真っ直ぐ前を向いている柚木先生。

 その目はいつになく本気だった……。



「……」



 こんなにも本気で想いを伝えられたことが無い。



 初めての経験にまた、胸が痛む。




「……柚木先生みたいに、私のことを“好き”だと言ってくれる人のことを、好きになれたら良いのに」




 頭に浮かんだ一言が、つい口から漏れ出てしまった。


 その漏れ出た言葉が、柚木先生にとってどのくらい酷かなんて。子供な私は全く考えていなかった。




「……別に、好きにならなくても良いですよ。僕が平澤さんのこと好きと言う事実は変わりませんから。僕を頼り、甘えて欲しいと思っていることも、何も変わりません」



 柚木先生の声が震えている。そこで初めて、私の一言が柚木先生を傷付けたことに気が付いた。



「せ……先生、ごめんなさい……」

「いえ、大丈夫です。平澤さんは悪くありません」




 私、最低だ……。


 真っ直ぐ前を向いたままの先生。そう言った先生の目からは、一筋の涙が零れていた……。




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