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「こんにちは、平澤さん」

「……こんにちは」



 既に部室に来ていた柚木先生。


 私は何故か顔がひきつって、上手く挨拶ができない。





 出頭命令を無視したものの、本当は胸が凄く苦しかった。




 河原先生のこと、好きじゃない。


 そう思いたいのに。




 どうして今もまだ、こんなにも好きという気持ちが溢れるのか分からない。




「……平澤さん」




 名前を呼ばれ、我に返る。


 柚木先生はこちらに歩み寄り、突っ立ったままの私を後ろから抱きしめた。




「河原先生、職員室で待っていましたよ。良いんですか」

「………」

「平澤さんに用があるから、部活は遅れて行かせるって河原先生から聞いていました」




 柚木先生は意地悪だ。


 その言葉にずっと耐えていた涙が零れる。



 良くない。

 本当はそう叫びたい。



「柚木先生の意地悪……」

「ごめんなさい。意固地になっている平澤さんが、可愛くて」

「……」



 涙の量はどんどん増える。


 嗚咽が漏れ始め、体が震えるのを抑えられない私を、柚木先生は更に力強く抱きしめた。



「ねぇ、僕を頼って下さい。良いです、河原先生のことが好きなままでも。それで平澤さんが落ち着けるなら」

「……そんなの、駄目です」

「駄目ではありません。平澤さんなら、それで良いです」

「有り得ない……」



 先生は抱きしめたまま私と向き合い、そっとキスをした。



「もう、泣かないで」

「……」



 私の目から零れる涙を口で受け止める。優しい先生の動きに、より一層の涙が零れた。



「……平澤さん、好きです。だからこそ、僕を頼って下さい」

「……でも、私……」

「良いから。僕はそれで良いです」

「意味が分かりません……」



 戸惑う私にふっと微笑んで、今度は少し荒くキスをした。



 柚木先生、本当に分からない……。

 とか思いつつ、抵抗しない自分も良く分からない。




 先生と抱きしめ合ったまま、2人して床に座り込んだ。無言で何度も唇を重ね、侵入してきた先生の舌も受け入れる。




 この前も思ったけれど。柚木先生とのキスは、何で嫌じゃないんだろう。

 自暴自棄になって、感情が何も湧いて来ないからかな。よく分からないけれど、その感情の答えが見つからなくて、少しもどかしい。




 唇を重ね合う音を部室内に響かせながら、気が済むまでその行為を繰り返した。




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