4



 水族館を一通り見学して、近くにあるカフェでランチを食べた。




 どこに行くにも握った手を離さない圭司。

 その様子に、胸が少し痛む。





「……ねぇ、菜都。実は俺、陸上部を辞めたんだ」

「え!?」




 カフェを出て、海辺にあるお散歩公園に来た。歩きながら海を眺められるこの公園を、圭司とゆっくりと歩く。


 そんな時に圭司がふと呟いた一言。それに私は酷く驚いた。




「辞めたって、何で……」

「……愛理に告白されて気まずくなった。これが、全て」

「…………」

「幼馴染とはいえ、男女の友情って成立しないんだなって思ったよ」

「……」




 私の手を握っている圭司の手に力が入る。そう呟く圭司の瞳は、少し寂しそうだった。




「菜都も気付いてたでしょ。朝も俺居ないし、俺だけ別行動だし」

「う、薄々……」



 やっぱり、聞いていたとは言えない。愛理がキスしていたところまで見ていたとも、尚更言えなくて少し挙動不審になる。



「愛理とは、元の関係に戻れないかも」

「……」



 正常に回っていたはずの歯車も、何か1つでも違う動きをすると、一瞬で全てが止まる。


 友情とは、なんて儚く……脆いのか……。



「ねぇ、菜都。菜都は、河原のことが好きかもしれないけどさ。俺は、ずっと前から菜都のことが好きなんだ。俺は今この瞬間も、河原のことが好きな菜都も含めて……菜都のことが好き」

「…………」



 突然の告白に、思わず立ち止まってしまった。


 手を繋いだままの圭司も一緒に立ち止まり、優しい瞳を私に向けてくる。

 泣き笑いのようなその表情に、より胸が痛んだ。



「菜都……。そんな顔するな。河原のことが好きなの、理解しているからさ。別に無理やりどうにかしようとか思っていないし。これからも菜都とは仲良くしていきたいんだ」

「……」



 圭司はまた、空いた手で私の頭を優しく撫でる。優し過ぎる手付きに、涙が出そう。



「菜都、今日は誘いに応えてくれてありがとう。また一緒に、出掛けような」

「……」



 胸が苦しい。

 涙が零れそうになるのを、必死に唇を噛んで堪える。




 圭司の言葉に対して、小さく頷くのが精一杯だった……。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る