3



 授業の間の休憩時間、移動教室、昼休み……。いつも愛理と圭司の3人で過ごしていた。


 それが昔から当たり前だったのに。




 あの体育祭の日から、3人で過ごす時間が完全に無くなっていた。


 圭司は私1人で居ると話し掛けてくるけれど、愛理が居ると近寄りもしない。



 その変化が心苦しい。だけどそれに触れてはいけない気もして、私には何もできない。





「平澤さん、大丈夫ですか?」

「……え? 何ですか」

「何ですかじゃないですよ」




 放課後のボランティア部。今日は校舎裏の草抜きをしていた。


 お互い無言で草と向き合っていると、ふいにそう言葉を発した柚木先生。



「元気が無さ過ぎて、心配です」

「……」



 その言葉に……私は何も言えない。



 俯き黙り込んだまま草抜きを継続する。

 柚木先生は小さく溜息をついて、私の隣に座った。



「……平澤さん、僕に甘えてみませんか」

「え?」

「誰よりも貴女の状況を理解しています。溜め込んでいるものを吐き出せば、自ずと心は軽くなりませんかね」

「……」



 目に涙が滲み始めた。

 柚木先生に甘えるなんて意味不明な言葉。だけど優しいその声掛けは、単純な私の心にじわりと染み渡る。



「……私、河原先生が好きです。柚木先生の優しさには、甘えられません」

「河原先生は、傷付く未来しかないって言っていますよね。しかも、気まずそうじゃないですか。今」

「……そうです。そうですけど、それでも私はまだ、河原先生のことが好きですから」



 ずっと草に目線を向けながら、呟くように言葉を発した。



「……はぁ」



 隣から柚木先生の小さな溜息が聞こえてくる。自分でも頑固だと思う。泣いて悩んでいるくせに、人の話は一切聞かず、自分の思いを貫き通そうとしているのだから。



 溜息の音が消え静寂がやってきた後、遠くから砂利を踏む音が聞こえてきた。




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