2




 平澤さんを落ち着かせて帰らせた後、職員室に戻ると河原先生と溝本先生の2人がいた。





 僕は知っている。この2人がセフレ関係にあること。


 河原先生の耳元で何かを囁いている溝本先生。2人共が微笑みながらコソコソと会話をしている。職員室で繰り広げられるその光景が妙に異常だ。



 昨日平澤さんが目撃した時も、2人は微笑みながら会話をしていた。



 見た感じ、河原先生に恋愛感情は無いと思う。


 けれど溝本先生……。

 こちらは完全に恋をしている。そんな雰囲気が、常に醸し出されていた。





「……河原先生、溝本先生」




 職員室の出入口から2人の名を呼ぶと、溝本先生は飛び跳ねるように河原先生から離れた。顔を少しだけ紅く染めた溝本先生は、睨むように僕を見つめる。



「お2人とも、気を付けた方が良いですよ。誰がどう見ても、付き合っているみたいです」



 その言葉に焦って動揺したのは、やはり溝本先生だ。



「つ、付き合ってないです。誤解を招くようなこと言わないで、柚木先生」

「距離感がおかしいんですよ」



 一方、無言で一点を見つめたままの河原先生。その様子に少し苛立ちを覚え、つい言葉を投げ掛けてしまった。



「……河原先生、あまり適当なことしない方が良いですよ。突き放すならそうする、受け入れるならそれなりの覚悟をする。今の河原先生は、あまりにも中途半端です。そうやって特定の人を苦しめるなら、僕は貴方を許さない」



 河原先生は冷静だった。

 表情1つ変えずに、どんよりとした瞳をこちらに向ける。そして、呟くように口を開いた。


「……やっぱり、柚木先生」

「………」



 だがしかし、河原先生はそれ以上の言葉を継がなかった。



「……」



 無言で立ち尽くしている河原先生と溝本先生。


 そんな2人を無視して僕は自席に戻り、散らかっている机の上を片付け始めた。






(side 柚木 終)






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る