クズな自分 side 河原

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(side 河原)





 高校教師を生業として、もうすぐ20年経つ。


 幾度となく生徒からも告白はされてきたが、それも今は昔の話……だと、思っていた。



 まさか40代になっても生徒から告白されるなんて、正直微塵も思っていなかった。





「……河原先生、何度泣かせたら気が済むのですか」

「………」




 平澤が走って逃げて行った後のボランティア部、部室前。柚木先生と2人、気まずい空気が流れていた。



「冷たく突き放すなら、その態度を継続させた方が良いです。冷たくしたと思ったら、話し掛けたり、気に掛けたり。そんなことすると、平澤さんが余計に涙を流すだけです」

「……そんなこと、分かっている」

「分かっていないじゃないですか。今、ここにいることが全てですよ」



 15歳も年下の先生に説教をされるなんて、情けなく思う。しかしそう思いながらも、柚木先生の言っていることは何も間違っていないから複雑だ。


 スラックスのポケットに入れた少量のお菓子。平澤へのお詫びだっただなんて、絶対に言えない。




「……結局、気になるんでしょう。平澤さんのこと。だから、こうして近寄って来るのでしょう」

「生徒として、気になるだけだ」

「『生徒として』なら、今後は平澤さんに関わらないようにして下さい。最低限のこと以外は、一切です」

「……何で、柚木先生に言われないといけないんだよ」

「顧問だからです。彼女の」



 そう言って、ボランティア部の部室に入って行く柚木先生。




「……柚木先生だって」




 そこまで口にして、黙り込む。これ以上の言葉は、不要だ。




 勢いよく閉められた扉を確認して、俺は職員室に戻った。






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