第86話

―――…



「エイジが婚約したの。」



目が覚めると隣でサツキは小説を読んでいた。



「…目が覚めて一声がエイジなんて抱き足りなかったの?」



「バカ、真顔で言うな。」



そう言うとサツキは笑いながらテーブルに置いていたアタシの着替えを渡してくる。



「アタシと2年付き合ってもそんな話出なかったのに。」



「それは助かった。俺一生独身だった。」



そんなわけあるか!!


アタシは起き上がると上着に袖を通す。

サツキは隣でそれを手伝ってくれる。

ボタンをひとつひとつ……



「あ、起きたならもう一回しておく?」



アタシはサツキが読んでいた小説の角で頭を叩こうとした。

だけど、



「2回も殴られるのは気分が悪い。」


素早く小説を奪うとアタシを抱き寄せる。




「かのん、そろそろ返事は?」



「は?何の?」



アタシはすぐに分からなかった。





「…俺ね、両親に言ってしまった。」



「だから何!?」



サツキはニヤって笑った。



「かのん、エイジより先に結婚しようよ。どうする?」



アタシは絶句してしまった。



サツキは親を味方につけて、


アタシに決断を委ねた。



ジリジリと追いつめて、最低だ。

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