キャロットさんはオトコ!!
玄関に残ったのはキャロットさんと私だけ。
「さあ、行きましょうかマイマイちゃん。私についてきてください」
キャロットは不気味な笑みを浮べると、すぐにその顔を戻し、
別の場所へと移動し始めた。
「あ、はい」
私はキャロットさんの後を追うようにのんびりと歩いていく。
外に浴室があるのだろうか?
しかし、女の子なのにキャロットさんは歩くのが早いなあ。
外はすっかり暗くなっていて、いつの間にか私はキャロットさんを
見失っていた。広い敷地内に明かりなどなく、ただ、暗闇の中、
キャロットさんの足音だけが「タンタン…」と、聞こえていた。
「あのー、キャロットさんどこですか? キャロットさーん」
私はキャロットさんの名前を叫んだ。例え敷地内だとはいえ、
私は暗い場所が苦手だった。
ーーーというより、暗所恐怖症といった方がいいだろう。
両親に捨てられ、部屋に引きこもっていた幼少時期が長かったせいか、
私は社会人になってもPM5時の定時刻には会社を出て、真っすぐ家に
帰った。新入社員総歓迎会も何かしらの理由をつけ欠席した。
美味しい料理を食べそこなったのは残念だったけど、それよりも
暗い夜道を一人で帰るのが嫌だったからだ。
「キャロットさ…ん、どこですか…?」
真っ暗闇の中、私はキョロキョロと辺りを見渡しキャロットさんを探す。
カン!!
頭に何かが当った。
それは私の頭に的中しポトッと地面に落ちた。
私は手探りで探り出しそれを拾う。
「それ、使いな」
「!?」
キャロットさんの声がどこからか聞こえてきた。
これって…
それを持った瞬間、手に触れた感触でまさか…と思い、
スイッチらしきものを入れてみた。
すると、真っ暗闇から解放され、目の前に光が照らされた。
キャロットさんが私に向かって放ったそれは懐中電灯だった。
私は足元から先の方に向かって光を照らす。
数センチ先にキャロットさんを見つけ駆け寄って行く。
「キャロットさん 懐中電灯、ありがとうございます」
「あなたをキレイな体にしてプリンスの元に連れて行く。
それが私の任務だからね」
それって…どういう意味だろう……
「あの…プリンスさんって何者なんですか?」
「何者?」
「だって、あきらかに上から目線だし…ちょっと変わってるというか…」
(皆、変なあだ名で呼び合っちゃって変わってるけど…)
「マイマイちゃんに言われたくないけどね……」
「え?」
「ウフッ…その体じゃ当分外の浴室ね」
「へ? 」
それってどういう意味だろ…?
「さあ、着いたわよ。ここがこれからあなたが使う浴室よ。
さあ入って」
そこは木造のボロ小屋だった。しかも、所々、板が剥がれている。
「あの…本当にここがお風呂なんですか?」
「そうよ、山の一等地の温泉。さあ、入って!!」
私はキャロットさんに背中を押されそのボロ小屋に足を踏み入れた。
うっそでしょ!!
私は前方に映る光景に思わず瞬きを繰り返した。
山の動物たちが優雅にお風呂に浸かっていた。
しかも、外からは丸見えだ。
「こ…これは…」
「ほら、山の動物たちも気持ちよさそうに浸かっているでしょ。
あなたも早く脱いで。それとも私に脱がせて欲しいのかしら?」
そう言って、キャロットが舞子に近寄っていくと、舞子は思わず
その ぷにょぷにょお肉がたっぷり詰まった体を両手で覆い隠し、
「……いえ、結構です。自分で脱ぎますから」と、拒否する。
「あ、そう…」
意外にもあっさりとキャロットは身を引く。
《当然のことながらキャロットは舞子の体に興味がないらしい》
それから3分後、舞子は衝撃な真実を知ることとなるーーー。
――それは『ホッ』と、一息ついた矢先の事だ。
私が衣服を脱いでブラジャーのホックを外している時だった。
何かがバサッ、バサッと備え付けの衣類カゴに置く音が耳に
聞こえてきて、
「―ん…?」と、衣類カゴの方へ視線を向けた。
あきらかに私が身に着けていたバーゲンセールで買った安物の服ではない
可愛い洋服が衣類カゴにあった。その洋服はキャロットさんが身に着けて
いたものだった。
……え?
「もしかして、キャロットさんも一緒に入るんですか?」
動揺した私はキャロットさんの美しい肉体美にゆっくりと視線の先を向けていく。
「当然でしょ。服を着たままマイマイちゃんを洗うと服が濡れちゃうでしょ?」
(まあ、オンナ同士だからいいか…)と私も気を許していた事は本当だ。
―――が、その視線に映った肉体美に唖然となり硬直する。
開いた口が塞がらないとはこういうことか……
「※△×〇■ ※△×・・・」
むっ…胸がない… 嘘でしょ!?
その胸は平らで逞しく男らしい胸板をしていた。
おっ…オトコ?
うっそおおおおおおお……
キャロットさんが男!?
「うっぎゃああああああああ……」
ドッテ――――――ンーーーー
言うまでもなく、私は背中から倒れ その場で失神した。
その口元からは小さな水泡が漏れていた。
「……キャロットさんが男……」舞子は呪文のようにぶつぶつと唱えていた。
「ああ、ったく、仕方がないわね…」
あきれたキャロットは山の動物達に助けを求め、
「ごめん、ちょっと手伝ってくれる?」と言葉を放つ。
勿論、人間にそんなことができるわけがないと思うが、
キャロットは唯一、動物の言葉がわかる動物使いでもあった。
「あう…」
動物たちは毎日、餌を与えてくれるキャロットの言うことだけは
いつの間に聞くようになっていたのだった。
動物たちは舞子の下着まで全部脱がせ、身体の隅々までキレイに
洗う。失神状態の舞子はまさか動物たちに自分の肉体を丸出しにされ
洗われているなんて思いもしなかった。
「後、3分しかないわ…スピード上げて」
「あう…」
キャロットの声に動物たちはスピードを最大限にまで上げて急ぐ。
「洗えたら、そこにあるジャージに着替えさせて洋館まで運んできてね。
私は先に帰ってプリンスが大広間にいくのを引き止めてるから」
「あう…」
そう言うと、キャロットは脱いだ服を身に着け洋館へと戻って行った。
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