第52話

ひと足もふた足も遅かった。

あんな所で浜辺さんと話していたから誰かに最後のクリームソーダ1本を奪われてしまった。


「浦崎君!」


振り返ると久々に菜々を見た。


「菜々、」


「どうしました?自販機の前でうなだれている人なんて初めて見ましたよ。」


そう言って菜々は自販機のある場所を見た。


「あ、さっき浦崎先生が買って売り切れたんですね!」


「え、波久が買ってた?」


「話してはないですが手に緑色の缶を持っていたので……、」


「それ、間違いなくクリームソーダだよ。」


寄りにもよって波久に最後の1本が手に渡るなんて……、


「俺、限りなく運が悪い。」


そう言うと菜々は笑った。


「そんな大袈裟な。でも小さな争いも見ていて楽しいですね。私は今から帰りますが何か食べたいものありますか?」


「え、俺も夕方上がりだから。」


「さっき医局のホワイトボード見ました。」


ハンバーグも良いし唐揚げも……、


「俺、肉じゃが食いたい。」


俺達の前をクリームソーダを飲みながら波久が通り過ぎた。


「え、肉じゃが?」


「菜々、無視していいからね?」

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