ウィッチ・クラフト・ウィッチクラフト

織音

第1話

「『そうして少年と少女のふたりは森の中を歩いていくと、お菓子の家を見つけました』……と。物語の中の魔女はこうしてこどもたちをお家に誘うのね」

リィラは古びた絵本をぱたんと閉じ、少年に向かって話しかけた。

「勉強になったわ。『入ってはいけない』から入ってしまうのも、私もとてもわかるもの」

閉じた本の表紙を撫で、そばにあるテーブルに置く。そうやって雑然と置かれ、所在のなくなったものがこの部屋にはいくつもある。この本もきっと、そのようにして見つからなくなってしまう。

「あなたもそうだったの?」

リィラはそうして、部屋の隅にいる怯えた様子の少年に近づく。少年は両腕で身体を守るように抱きしめ、何も答えない。

「怖いの? いいえ、そんなに怯えないで。大丈夫よ。怖くない」

そんな彼の腕を身体から剥がして、リィラは安心をするようにと背中を撫でる。耳元で囁く。

「あなたは神様から愛されるだけなのよ」


そうしてリィラは目を閉じ、手を合わせ、指を絡ませ、言葉を呟く。


―――これは『森の魔女』リィラが魔女になるまでのお話。

より正確に言えば、魔女になることを受け入れるまでのお話。

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