第256話

「叶斗、?」



目が覚めて名前を呼ぶ。



しかし、叶斗からの返事はなかった。



部屋にいないのかと思ったが、私のお腹に腕が回されているのに気が付いた。



私はゆっくり寝返る。



すると、スースー気持ち良さそうに寝る叶斗の顔。



暫くじっと寝顔を見つめる。



「こうやって、毎日叶斗の傍で…安心して暮らしたい、な」



叶斗の職業が悪いわけじゃないけど、やっぱり不安。



ずっと家にいるなんてそんな事は出来ないし、金がなきゃ生活できない。



「私だけを……愛して欲しいなんて、…ッ、何度、言ったんだろう…」



自然と涙が出てくる。



もう普通の恋愛になんて戻れないんだから、責任取って貰わなきゃ生きていけないんだよ。



浮気してないって信じてるし、叶斗の私に対しての接し方が他と違うことはわかってる。



だから…だからこそ、雪野怜と一緒に居て欲しくないの。



「泣くなよ、千花」



「お、起きてたの?」



「呼んだ時から起きてる」



「そう…」



叶斗の胸元に顔を埋める。



叶斗は私の不安を取り除くように、抱きしめて、背中を撫でてくれる。



その間、お互い話すことはなかった。

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