第178話

目が覚め、身体を起こすと名前を呼ばれた。



「千花」



声の方へゆっくり顔を向けると、もう既に仕事に行ったと思っていた叶斗がいた。



目が合ったが、すぐに私は視線を逸らした。



「……まだ行ってなかったの?」



「俺の自由だろ」



久しぶりに姿を見たし、声を聞いた。



私の方へ来るのが分かり、それに少し戸惑い、顔を俯ける。



「顔上げろ」



ただそれだけ、その言葉だけなのに、全身に鳥肌が立ち身体が動かなくなった。



上げなきゃ怒られる、頭ではわかっていても、動かせない。



早く早く、ハヤクハヤク…否定される。



私の様子がおかしいことに気付いて、顎に手を当てられゆっくり上を向かされた。



視線を合わせると、叶斗の顔は凄い辛そうに見えた。



「ごめんな、千花」



「ぁ…私は、大丈夫…だ、よ?」



叶斗にそんな顔をさせたい訳じゃない。



私は大丈夫、ダイジョウブナノ…。



「できるだけ早く帰れるようにする。待っててくれるか?」



「ぅ、うん」



上手く笑えているだろうか…表情はおかしくないか…。



少しの沈黙が怖い。



多分顔が引き攣ってる。



チュッ、とキスを落とされ「行ってくる」と言われた。



私も「行ってらっしゃい」と、頑張って手を振った。

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