第174話

ゆっくり目を覚まして、当たりを見渡す。



「…大丈夫か?」



少し遠くから声をかけられた。



「…………叶斗」



「ん?」



視線を叶斗に向けると、仕事をしていた。



「ケーキ、食べたい」



「朱羽に持ってこさせる、少し待ってろ」



朱羽は部屋にはいないらしく、叶斗は出て行った。



頑張って身体を起こして、窓まで向かう。



カーテンを開けると、まだ外は暗かった。



雨も未だに降っている。



「千花、出歩くな」



後ろで叶斗が言ったみたいだけど、その声は届かなかった。



キィー、と窓を開ける。



窓が開くことに驚いたが、それよりも雨の匂いが心地よかった。



手で雨を確認しようとしたら、大声で呼ばれて驚いた。



「千花!!!」



腕が千切れるんじゃないかってくらいの力で後ろに引っ張られる。



「お前、飛び降りる気かよ!?」



抱きしめられた力は強すぎで、少し痛い。



ただ、雨に触れたかった…それだけ。



「ごめんなさい、雨…好きだから」



「それはわかってる…俺も怒鳴って悪かった。だが危ないことはしないでくれ」



「うん…」






それから朱羽がケーキと紅茶を持ってきてくれて、それを食べた。



叶斗は仕事を終わらせようとはしなかったから、また私が言った。



渋々机に戻って行ったけど、私の傍にいたいらしい。



それは私も同じ気持ちだけど、私は大丈夫。



『全て』終われば、ズット傍にいれるんだから。

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