第120話

「申し訳ありません、叶斗様」



私からすぐ手を離し、距離をとる。



「未遂か?」



「はい、千花様に手を出してはいません」



カツ…カツ…と叶斗が近づいてくる。



ゆっくり叶斗へ視線を合わせる。



「叶、斗?…うぅっ!!」



朱羽より鎖を強い力で引っ張られた。



そのせいで窓辺から転がり落ちる。



「千花、お前は誰のもんだ」



鎖で顔を近づけられる。



「か、な…と」



「わかっているならなぜ朱羽に許した」



「…」



「千花、言え」



「許して、ない……。だけど叶斗の傍にいれないから、傍にいちゃいけないから、私…私っ」



「俺のせいか」



「うん、叶斗のせいだよっ!何で一緒に仕事場行けないの?傍にいたいよ」



叶斗のせいにしてしまった…。



本当は自分のせいなことくらいわかってる…頭では分かってるんだよ…。



「お前に関わってることなんだ…まだ頃合じゃねぇんだよ」



「私に…関わってる?」



何が関わってるの?



頃合って何なんだよ…。



「千花に危害加えるわけにはいかねぇだろ。大人しく部屋で待っててくれ」



危害ってなに?前に叶斗が撃たれたこと?



「私がいたら、迷惑…なの?」



「そういうことじゃ、」



「もう殺してよ!!!!」



叶斗の言葉を遮って言う。



「私がいるから叶斗に迷惑かかる、朱羽にも迷惑がかかる…。もういいよ、十分生きた…叶斗の手で殺して欲しいの」



「迷惑なんて思ってねぇ。むしろ千花がいるから俺は生きてる。わかるだろ?」



目で訴えかけてきても分かるわけないじゃん。



「わかるわけないよ!こんな姿になってまで傍に置いておく理由がわからないんだよ!!」



「不安なら何度でも言う、行動でも示してやる。だが千花が傷つくことだけは俺が嫌なんだ…。千花が大丈夫でも俺が大丈夫じゃないんだよ」



頬に当てられた手が震えている。



「千花を失えば俺はお前の後を追う。分かれよ、俺の生きる理由はお前なんだ、千花」



泣きそうな顔で抱きしめられた。



「お前が死んでいい理由なんてどこにもねぇんだよ」



「…ジャア、ワタシハカナトノタメニイキテイレバイイ?」



「あぁ、俺だけのために生きろ」



「ウン」



私が呑まれていることに気付いている様子だった。



「千花、愛してる」



「…ウン」



叶斗を抱きしめ返した。

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