第116話

* * *






「叶斗様、ただいま戻りました」



抱えられた私は叶斗の方へ向くと、視線を逸らされた。



「千花様、傷の手当を致します」



そう言い椅子に座らされた。



叶斗は私の元へ来てはくれなかった。



私を目に映したくないのか、仕事を再開し始めた。



「消毒液がしみる場合があります。痛みがある場合遠慮なさらず仰ってください」



手際よく、手当してくれる。



「顔周り、処置しますね」



しみる消毒液に眉を顰める。



「……朱羽は、こんな傷跡ある女は……嫌い?」



「私は千花様を嫌いにはなりませんよ」



「…………醜くないの?」



「千花様はとても綺麗ですよ」



「なんでそんなこと言うの…?」



「千花様?」



私は朱羽に近付いた。



「千花様、何…」



「千花!!」



私の行動に叶斗に名前を呼ばれ、今しようとしたことを止める。



「俺の前で朱羽に何しようとした」



「キス」



「理由を言え」



明らかに怒っているのがわかる。



だけど、私も怒ってる。



「あんたが私の元に来ないからじゃん。そんなに醜いなら…近付きたくないなら私が朱羽を選んでもいいだろ」



「それは千花がっ」



「私を思っての行動は止めて!現にさっき私から目を逸らしたのは何だったの!?」



「……」



私は叶斗に来て欲しかった…助けて欲しかった。



それなのに帰っても目も合わせない、私の元にも来てくれない…それのどこが私の為なんだよ。



「ひっ…く……うっ……ッ」



足音で私の元へ来たのがわかった。



「泣かれると困んだよ…」



涙を拭われ、本当に困った顔で言われた。



「俺は…壮と同じことをしている自覚はある。だからこそ近づけば怖がられると思って千花の元へ行かなかった」



頬に置かれた手を握る。



「……叶斗はっ、怖くないよ」



「助けに行けなくて、ごめん」



「うんっ…」



優しくキスをされた。

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