第114話

* * *






次に目を覚ました時に叶斗がいたらと願ったが、そんなことを期待した私が馬鹿だった。



何も変わらない状況。



痛めつけられる身体。



服は未だに着させてもらえない。



寒さも忘れ、まだ痛む左半身。



魂が抜けた様な身体を殴って蹴ることは楽しいのだろうか?



「その長い髪も切っていいよな?」



グイッと髪を掴まれ引っ張られる。



うんともすんとも言わない私に問いかけても無意味。



「お前は俺の言葉だけ聞いていればいいんだよ」



ハサミを持つ手が迫る。



私の髪を切ろうとした時、ドンドンッ!!と扉を叩く音が聞こえた。



「……誰だよ」



壮の手が止まり、扉へ向かう。



ドアノブに手をかけようとした瞬間、勢いよく扉が開いた。



「動くな!」



何人かに取り押さえられ、壮に向ける銃。



私の元に駆け寄ってきたのが誰なのか最初は分からなかった。



「千花様!」



名前を呼ばれ、上着をかけられた。



「千花様、私がわかりますか?」



「………しゅ、う」



「はい。遅くなり大変申し訳ありません」



私を運ぶため抱えようとしたら、壮が声を荒らげて言った。



「テメェそいつに何すんだ!?」



「自分の状況を考えてから言えよ」



朱羽が放った声とは思えないほど、低かった。



私と叶斗に聞くような口ではなかった。



銃口を向けた朱羽を私が止める。



「…朱羽、私は……大丈夫だから、止めて」



右手を下ろさせる。



「……家に着き次第、直ちに怪我の処置致します」



何か言いたげな顔をしたが、私が止めたため従ってくれた。

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