第79話

千花side




瞼を開けた時、見えた景色に状況がつかめなかった。



私……生きてるの…?



「千花!?俺がわかるか?」



声が聞こえゆっくりと顔を向ける。



「……か、な…と」



顔を向けたけど、身体が動かない。



何これ。



私の手は叶斗が握ってる。



叶斗に握られてるのに、何故か身体が叶斗を拒絶した。



手を…できる限りの力で振り払った。



「千花…?」



「なんで……私、生きてるの?」



やっと死ねると思ったのに。



やっと…2人の荷物にならずに済むと思ったのに。



なんで死んでないんだよ…。



「解放されると…思ったのにっ……」



泣き出した私に叶斗は言った。



「俺からの解放か?」



その言葉は冷たかった。



「…ぅん」



「……そうか」



沈黙が流れて、怖い。



1秒が何時間にも思えて、この場から逃げたい。



暫くすると叶斗は立ち上がり、言葉を掛けることもせず、部屋から出ていった。






* * *






すれ違い以上に私の心は満たされなくなった。



虚勢を張っているのも辛い。



弱い私は何かに縋らないと生きていけないから。



それが叶斗になればなるほど、もう離れられなくなる。



だからこそ、まだ逃げようと思える、捨てられても大丈夫な時に私を離して欲しかった。

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