第28話

言葉通り、叶斗は見舞いに来なかった。



「千花様、体調はどうですか?」



「…」



叶斗のそばに朱羽はいるはずなのに、なんで私の所にいるの?



元々叶斗の側近としていたし、邪魔だと言われたから、朱羽も私のそばにはいないものだと思った。



叶斗が放った言葉が重く、暗く…心を支配していく。



「担当医から明日には退院できるとお聞きしました。良かったですね」



「………ぅん」



私の中で、プツン…と糸が切れた。



「千花様、退院したら何かしたいことはありますか?」



「……だれ?」



「え…」



「あなた、だれ?」



切れた糸は戻らない。



私は朱羽が認識できなくなった。



「千花…様?」



「ねぇ、何で私病院にいるの?私何したの?」



「あの、千花様…」



「何で私のこと様付けで呼ぶの?様付けされる程偉くなった覚えないよ?」



近付くと、1歩、2歩距離を置かれた。



「何で離れるの?私のこと嫌い?」



「…少し、お待ちください」



慌てて部屋を出ていった。






* * *






「どこ行ってたの?」



「…少し電話で話をしていました。叶斗様がこちらに来ます」



「叶斗?あなたはなんて名前?」



「…私は朱羽と申します。これから来る方が千花様にとってとても大切な方です」



「どういう人なの?」



叶斗が来る間、どういう人なのか、どういう関係なのか…全て話してくれた。



「千花!」



突然名前を呼ばれ、ビクッと反応する。



「だ…れ?」



「千花様、こちらが先程お話した叶斗様です」



叶斗を見ても何も感情が湧かなかった。



「私…朱羽がいい」



「ですから、千花様、この方こそ…」



「いーやーだー!私は朱羽がいいの!」



朱羽の腕を取り、私のものであると表現する。



その行動に地を這うような、今にも殴りかかってきそうな顔で「あぁ゛?」と言われた。



私に対してより、朱羽に対して、殺気を立てた。



朱羽は私の腕から逃げた。



「朱羽?」



なんで離れたの?という目で見る。



「千花…お前自分が何言ってんのか分かってんのかよ」



「うん。でも私叶斗との記憶ないもん。今の私は朱羽の方がいい」



「お前は俺の女だ」



「なんで叶斗に決められなきゃいけないの?私が選んだんだから私が決めていいじゃん」



「…ははっ、マジかよ」



頭を抱え、しゃがむ叶斗。



「本当に忘れたのか?…俺との記憶」



「…うん、ごめんなさい」



「はぁ……明日退院だろ?そん時来るわ」



私と視線を合わせず、帰って行った。



「千花様…私には構わず、叶斗様の傍に居てあげてください。お願いします」



「でも…私朱羽がいいの…」



「お気持ちだけで十分です」

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