第22話

その日の夜、突然雨が降ってきた。



夜にもう一度海に行きたかったな…。



私は窓の外を眺めてた。



そこに後ろから叶斗が抱きしめてきた。



「………いなくなんなよ」



私は反応せず優しく頭を撫でた。



相変わらず不安みたい。



ダメもとで聞いてみた。



「海……行きたい」



「この雨ん中か…?」



「うん…」



「わかった…車出す」






* * *






既に身体は思い出していた。



どうして海に行きたかったのか、その理由は1つ。



【この地獄から抜け出したかった】。



頭ではわかっていても身体が反応を出していた。






* * *






車を走らせてる間、お互い何も話そうとしなかった。



ただ窓に打ちつける雨の音が心地良いと思った。



海に着くとすぐにドアを開け、私の足が向かう方向に正直に動いてた。



足に水が触れると昼間よりも冷たかった。



あぁ、このまま海に飲み込まれて死ねたら楽?



ゆっくり、ゆっくり…足を進めた。



「千花!!!」



名前を呼ばれ、腕を掴まれた。



「お前…何しようとしてる」



「…」



「おい!」



振り向いた私の顔を見て、男は言葉を失った。



「……死にたい」



気づいたら口にしていた。



「海は…好き?私は好きでも嫌いでもない。だけど、このまま海に身を任せたい。どう?…一緒に行こ?」



今の私はどんな風に映ってるだろう。



何も話さない目の前の男の手を振り払い、海へ進む。



腰くらいの所まで水が来た時、雨の中なのに私を呼ぶ声は鮮明に耳に届いた。



「俺を…捨てるのか、?」



「す、てる?」



違うよ。



行こって言ったじゃん。



答えてくれなかったじゃん。



「…戻れ、千花」



手を差し伸べて言われた。



「千花」



どうしたらいい?戻る?戻らない?



どれが正解なのか分からないよ…。



見ると泣いているように見えた。



それは雨のせいだったかもしれない。



いつまで経ってもこの場から動かない私に、冷たい海の水の中を進んで来た。



「死にたいなんて言うな…」



見上げた私の頬に置かれた手は冷たかった。



「俺の生きる理由はお前なんだよ。俺のために生きろ」



「………生きる…理由、?」



「あぁ。千花がいるから俺は生きていける」



『生きる理由』。



生きる…理由。



生き…る…。



イキル……。



「嫌っ!止めて!生きろなんて私に言わないで!!」



ワタシハイキテチャイケナイ…。



「千花!落ち着け!」



オネガイ…『コロシテ』。



「わた…私、は…生きてちゃいけないんだよっ」



抱きしめられ、感じる体温に泣いてしまった。



「…うぅっ…っく…どうしたら…っ、いいのっ」



「…俺のために生きて欲しい。俺だけを考えてろ。それで十分だ」



この人何言ってるの?



「寒いから車戻るぞ」



タオルなどなく、すぐに車は動いた。



「ホテル向かう。少しだけ我慢してくれ」






* * *






完璧に堕ちた私に叶斗を認識する頭は無くなってた。

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