「スペシャルアビリティー アゲハ 2」アイドル

SION

酷似

第1話

「うっ…ッ。あぁ…。」


鎖に繋がれた彼の背中に男がナイフを滑らせる。10cmほどの傷口から血がにじんだ。

だが彼は耐えるしかなかった。

もう何度同じ行為をされただろう。分からなくなる程何度も何度も痛みに耐えた。


だが今はとにかく耐えるしかない。

生きるために…。

そして意識を手放した。


ふと気がつくと人の気配はなかった。

辺りを見回す。冷たい空気が体のむき出しになっている肌に触れる。


何も感じない。むしろ気持ちいい。

又、熱が出ているのかもしれない。

そう思いながらほんの少し体を動かそうとした。鎖の擦れる音が響く。

うすぐらい中、何となく見える景色は無機質の鉄のような壁に四方が囲われている。


どこかの倉庫かはたまたコンテナか。

想像するに外には何もないのだろう。

全くといっていいほど人の気配を感じられない。


鉄パイプベットに鎖で両手足を繋がれた状態のためほんの少し関節を動かすことしか出来ない。


小さく息を吐くと目を静かに閉じた。

もう何日、何時間たったのかもわからないまま暗闇で過ごしている。


時折男が来ては背中にナイフで傷を付ける。

皮一枚だけを丁寧に傷付けにじみ出た血を舌で舐めて行くのだ。


彼は唇を噛みしめ鳥肌がたつほどの嫌悪感と恐怖の時間を耐えた。

数回の行いの後、男は彼の髪を鷲掴みにし、無理やり上を向かせペットボトルの水を口に流し込んだ。


咳き込む彼に見向きもせずそのまま外に出ていく。

ご丁寧に外から<ガチャン>と鍵をかけた音が聞こえた。


そこではじめて彼は全身の力を抜いた。


「気持ち悪い。」


声が響く。


それでも大人しくしているのは、下手に体力を使えばいざというとき動けなくなる事を経験上知っているからだ。


「いい加減、迎えに来いよな…。」


呟きも虚しく闇に消える。


彼は再び目蓋を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る