第89話

8時前になっても起きてこない新次郎さんが気になって、何か少しでも口にしてもらおうと思って作ったお粥を持って寝室に向かった。




軽くノックをしてから入れば…その音で目が覚めたのか、ダルそうにしながら身体を起こす新次郎さんが視界に入った。




「新次郎さん、気分…どうですか?」



普段と変わらないテンションで話しかけた私に、彼はとても冷たい眼差しを向ける。




「……お前、何で居んの。」



「…えっ、」



「仕事、行ってる時間だよな?何でまだここに居るんだよ」




なんでって……それはっ、




「俺のため…なんて、言わねぇよな?」



「……あのっ、」



「俺言ったよな?お前にそんなこと、求めてないって…」



「でも…熱が出てたし、心配でっ」



「そーいうの、すげぇ迷惑」





迷惑だと言って、額に貼り付けてあった冷却シートを剥がし…それを私の足元に投げつけた。




「失望するようなこと、してんじゃねぇよ」



「……でもっ、」



「迷惑だって、言ったよな?今からでも仕事…行けよ。俺のために時間を使うようなことするな」



「……どうして…」



「あー…お前が行かねぇなら俺が出ていくわ」




自惚れていたのだろうか。少しは心を許してくれているかもしれない、なんて…どうやら私は痛い勘違いをしていただけのようだった。

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