第47話

トクン....トクン....密着した身体から伝わってくる心臓の鼓動は、速いのか遅いのかよく解らない。




 水面の波紋が徐々に静けさを取り戻した時、気が付いた。





「――――なにしてんの。」



「杏のうなじが綺麗だから吸い付いてるだけ。」




 ”抱く“発言をした癖に、抱きしめて私の首に唇を寄せるだけ。



 痕を残す為の強く....とかじゃなくって、くすぐったい様な歯痒い感じ。




―――――調子狂うな....。







 どうしてこの男ってやつは、何度蹴落とそうとも、私に向かってくるのか不思議で仕方がないのだ。






 逆上せてきて、頭がぼーっとして、眠くなってきた頃だった。








・・・「....駄目ですって、今若頭と姐さんが入浴中でっ!!」


「良いじゃん、ハチが女連れて来てるなんて、絶対嘘だろ?あのハチが....」





 脱衣所の方から騒がしく、二人の男の話声が聞こえてきて、手放しかけていた意識を少し取り戻した頃。




――――ガラガラ....。っと何の躊躇も無く隔てる戸を引いた人物に、一瞬にして思考は停止した。







「え、ウソ、マジだったの!?」


「.....。」





 現れた人物と対面して、目をパシパシと瞬きを繰り返す。



 詠斗とは正反対の真っ白に近い髪の毛、だけどどことなく見た目の雰囲気が背後に居る彼に似ていて....。





「うっせーな。ナナてめぇ殺すぞ。」



 地鳴りの様な、低く怒りに満ちた様な詠斗の声が響き渡る。



 うなじに吸い付いていた筈の顔は、いつの間にやら肩に顎を乗せて、私の身体を隠す様に腕を回してきつく抱きしめていた。

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