第42話
仕事終わり顔が引き攣る私を他所に、ビルの前に堂々と停車するフルスモークの高級車。
周囲の目が痛い。そんな事とは露知らず、少し開いた窓の隙間から立ち上る煙の方へと恐る恐る歩み寄った。
「こんな場所で待たないでくれないかな。会社の人たちに変な目で見られるじゃない。」
真っ黒なフィルムで、中の人物の顔なんか到底見えないけれど、地声をうんと低くした声で喋り掛ければ、ゆっくりと開いた窓から現れた詠斗の顔が、その枠から乗り出して私の唇を奪い去った。
公共の場という認識は、この男には無いらしい。
堂々たるキスに、目は開きっ放しでムードのへったくれも無い。
ゆっくりと離れていく綺麗な顔を羨ましく思うも、呆れたように真顔で見つめていれば、ニヒルな笑みを落とす。
「早く乗ったら?」
「言われなくても乗るわよ。」
危ない橋に足を掛けたら、もう二度と戻っては来れないだろう。
「若頭、如何なさいますか?」
運転手の坊主の質問に対して、
「このまま家に直行しろ。」
なんて言うものだから、てっきり何事も無く自宅へと送ってくれるんだと思っていた。
「って、話が違う!!」
何度目を擦ったって、降りた先の景色は、いつぞやのコンクリートの高い塀が、其処等一帯に広がる景色。
【山田組】の表札と、ずらりと並ぶ怖い男達。
「「「「「お勤めご苦労さまです!!若頭....そして姐さん!!」」」」」
威勢の良い掛け声に、思わず横に居る糞野郎に目を向ければ、何食わぬ顔してるし....。
「姐さんじゃないわボケ!!」
「いいじゃねーか。どうせそうなるんだし。」
....よくない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます