第32話
三度目の黒塗り高級車の中は、私の啜り泣く声が車内に密かに溶け込んでいった。
なんていうか、何で私が泣いてるのかは意味が分からないけれど、それぐらいに恐ろしかったのだ。
失うモノが無いと思ってたけれど、いざ危機感を感じ、覚えてしまうと色んな感情がこみ上げてくる。
“セフレ”という直ぐに切り離せる身体だけの関係を主に、異性の関係を構築してきたが....
意外と危ない橋の上を渡っているのかもしれない。
でもね、一つだけ文句を言えるとすれば....
「アンタが来なきゃ、こんな事にならずに済んだのに....。」
ただそれだけに尽きる。
一度ならず、二度も私の邪魔をして、セフレ君たちに俺の女発言を繰り返す糞野郎め。
ケンちゃんといい、ヒナタ君といい....彼等の中では、私に男が居るという認識をされてしまった。
大事な大事な、私の欲を満たしてくれる存在が.....
あれ?彼等ってそこまで大事なのかな。と疑問符を浮かべられる位に冷静になった。
「五月蠅いな、お前が大人しくしていれば、こんな事せずに済んだんだよ。」
あゝ言えば、こう言う。とは実にこの事。
確かに、私がしている事は最低だけど、それよりも私の人生を邪魔するこの男こそ、もっと最低なんじゃないかな。と思うのよね。
なんだか最近、詠斗に振り回されて、この男の事ばかり考えてしまっている自分が馬鹿馬鹿強い。
確かにあんたの童貞を奪ってしまったことは申し訳ないと思うよ?
相当大事に取ってたんだろうね。
じゃなきゃ、こんなに私に執着なんかしないだろう。
まるで、最愛の人に処女を捧げた乙女の如く。
いつまでも忘れられない相手....。初恋の......。
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