第23話

我が家であるアパート前に到着して、自分で車の扉を開いて下車すると、続けて詠斗も降りてきた。




「じゃっ、さよなら。」



 何かされる前に、お暇しなければ。腕を振り上げて、背を向ける。もう関わりたくもない。



 階段を昇っていると、カンカンと背後から足音が聞こえてきて、思わず振り返った。



「――んなっ、なんで付いて来てんのよ。」



「自分の女の家に遊びに来ただけだ。」



「やめろ、今すぐ帰れ!!」





 勢い良く指差す方向には、運転席と助手席からこちらを覗き見るゴリラ二人の姿。



 ほら、あんたの事待ってるわよ。さっさと戻りなさいよと目で訴えてみる。




 私の家には死んでも上げないんだから。何があろうとも....











「っくそ!!ドアノブから手を離せ、そして大人しく帰れ!!」



 鍵を開けて、『じゃあ』と扉を閉めようとすれば、それは制されて....。



 力尽くで命一杯引っ張っても、ビクともしない。




「諦めろ、杏は俺より弱いんだから。」



 さっきまでの押し問答が嘘かの様に、グイッと引かれた扉に、身体を持っていかれてそのまま詠斗の胸へとダイブした。



 痛いっ....。鼻を強打して顔を顰めた。




 凄く無様だ。恥ずかしくて顔を上げる事が出来ない。今きっと涙目になってる。





「ほら、言わんこっちゃない。大丈夫か?」



 なーんて、優しいのか優しくないのか分からない言葉を掛けた詠斗は、私の顎に手を添えると、無理矢理に上に向けさせてまじまじと見つめてきた。




 吸い込まれそうな漆黒の瞳が、強打した鼻から徐々に上へと昇る。



 頬を伝う涙を親指で拭うと、何故か笑みを溢して、口づけを落としてきた。

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