第22話

掴まれた以上、逃げる事は不可能だった。


 昨日と同じ黒塗りの高級車に乗せられて、ジト目で睨む相手は詠斗様...糞野郎。





「そんなに見んな、つだろう。」



「五月蠅い、馬鹿。」




 身体は最高、中身は最悪。やる分には問題ないけれど、それ以上を求められたら参ってしまう。



 そんな事よりも、同行している強面構成員二名が、非常に気不味そうに、肩身の狭い思いをしていた。



 昨日の屋敷に居た人達といい....私という存在は彼等にとって、本来居てはならないものでは?と自問自答。




 ほら、私って一般人じゃない?普通ヤクザの本拠地に足を踏み入れる事なんて有りえない光景じゃん。



 それに....若頭に豪い強気な態度で接しているし、今考えれば、『俺達の若頭になんて態度取ってんだ!!』ってコンクリ固めで海に沈まされても可笑しくはない。




 



――――「あ、ここが家だから、降ろして。」



「ウソ吐け、もっと先のアパートだろうが。」



「何で知ってんのよ!!」



 流石に家は知られちゃ不味いと思ったから、少し離れた小奇麗なマンションの前で声を掛けたはずだったのに、やっぱりこの男は調査済みってわけか。



 深く溜息を吐いて勘弁するかの如く、窓の外へと視線をずらした。





 見慣れた街並み、家賃5万の1DK。風呂・トイレ別。ここ等では破格の私の城。




「伊丹 杏 25歳、○○商事勤務のOL。住所は、××町□□番ヤサグレ荘204号室」



「ああ!!もう分かったから、それ以上個人情報を口に出すな!!」




....引っ越しも視野に入れなきゃならないみたいだ。

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