第86話

そんな私が夢から覚めるのは、外が暗くなってからだった


目が覚めると、寝起きのせいかダルさも増していた


体温計と薬を取りに行こうと頭では思っても、体をすぐに起こすことができなかった


そういえば眠る前に電話が鳴っていた気がすると思い出して、手を伸ばしてバックを引っ張る


着信は冬弥からだった


せっかくの電話に出れなかったことが悔やまれた


私は起き上がってTVをつけて、番組表を見た


今の時間生放送の歌番組に冬弥が出ていた


電話しても出れないだろうと思い、体温計と薬を持ってソファに横たわった


―ピピピ


脇に挟んだ体温計が終了を告げる


『嘘…39度もある…インフルじゃないといいけどな…』


とりあえず家にあった市販の風邪薬を飲んで冬弥にメッセージを送った


《ごめんね、電話出れなくて。生放送頑張ってね。 友梨》


そう送信して冬弥の出番を待ち見ていた


TVで見る冬弥はクールだ


「続いてはblackoutでーす。よろしくお願いしまーす」


名司会者に紹介されて映される冬弥の姿を見て、会いたい気持ちが強まる


「今日は視聴者の皆さんから、質問が届いてます。ボーカルの冬弥さんに質問です」


「はい」


「仕事が忙しいときに、好きな女性に会いたいと言われたらどうしますか?という質問が届いております」


おお…

何だか私が投稿したような質問だ


なんて答えるんだろ


「そうですね…」


「実際あれでしょ?忙しいでしょ?どうするの?」


「んー…時間を見つけて会いに行く努力はしますよ」


だよねぇ…


「どうしても無理だったら?例えばその日に会いたいって言われてその日が無理だったら?もうすぐクリスマスじゃない。クリスマスに会いたいって言われたら?」


何だこの司会者

私の気持ちを知ってるようだな


「というか、自分自身が会いたがりやなんで、相手に言われる前に会いに行きます」


「おー、そんなイメージないけどねぇ。そうなんだ」


その言葉を聞いて、嬉しくなった


冬弥の歌声が耳に心地よく響く


カッコイイとしか言葉がでてこない


時々見せるカメラ目線の鋭い眼差し


この瞳に優しく見つめられる私は幸せ者だ


曲が終わってたくさんの拍手と歓声を浴びている冬弥の笑顔を見るだけで、私も笑顔になれた

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