第84話

夏川先輩の運転で車に揺られる


運転に性格が出るのは本当らしい


穏やかで心地よく眠りを誘う


「寝ててもいいぞ?」


『いえ、寝ません』


眠るのは悪いと思った


でも、嘘でも寝ておけばよかったかもしれないと後悔する


「なぁ、一ノ瀬」


『はい?』


「…クリスマス、何か予定あるか?」


その聞き方に、朦朧としていた意識をハッとさせる


『まだ…特には…』


冬弥に聞くつもりでいた


少しでもいいから会いたいと


「仕事終わったら、時間ないか?」


『えーと…』


なぜ予定があると嘘をつかなかったのか


自分でもわからなかった


「一ノ瀬、俺は」



「あ、悪い」


先輩がその先に何を言おうとしたのか、私にもわかった


だから先輩の電話が鳴ったとき、ホッとした


このままの関係を崩したくなかったから


「悪い、行き先変更で手前の駅までしか行けなそうだ」


『全然大丈夫です!わざわざありがとうございました』


「あと少しだけど、寝てろ」


『…はい』


その気遣いが、心苦しかった

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