第58話
「3560円になります」
家の前に着いてお財布を取り出すと、冬弥はさっさとお金を出して会計を済ませる
『半分払う』
「いらない。早く降りなさい」
そう促されてタクシーを降りると、何故か冬弥もタクシーを降りた
そしてタクシーは走り去って行ってしまう
『…え?タクシー行っちゃったよ!?乗らないの!?』
「もう無理、限界…」
『冬弥?』
冬弥は私の肩に顔をうずめた
「お願い1時間だけでいいから寝かせて」
本当にズルい人
そんな風にされて、私が断れないのを分かってる
私は何も言わず深呼吸して冬弥の腕を引いて歩いた
今にも倒れこみそうなくらい、体に力が入っていないのを感じた
気恥ずかしい気持ちのまま、玄関を開けて部屋へ連れて行く
「すげー友梨の匂い…ありがと」
冬弥はソファに腰掛けるなりクッションに顔をうずめてそのまま眠ってしまった
寝室から毛布を持ってきて冬弥にそっと掛ける
ふと見た寝顔を見て、自分が自然と微笑んでいる
嫉妬するくらい長いまつ毛
なぞりたくなるほどスッとした鼻筋
キスしたくなる薄い唇
撫でたくなるほど艷やかな黒髪
全てが愛おしいと思っていた
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