第11話 VS急襲のガルダン

 正体不明の衝撃波に飲まれ、馬車が盛大な音をたててひしゃげる。それに混じって稲妻が空を走るような音も聞こえた気がした。マグナは全身を鎧化した為、スラは即座に馬車外に脱出した為、大した外傷はなかった。二人の周囲には壊れた馬車の破片が散らばり、御者や馬の無残な亡骸が横たわっている。


「マグナさん、無事でしょうか」

「ああ、しかし、何が起こったってんだ」


 二人は周囲を警戒する。上空に二体の巨大な鳥が翼をはためかせ飛んでいた。一方は白く、もう一方は黒い。白い方の鳥の上には、ゴーグルを掛けバンダナを頭に巻いた無精ひげの男が乗っていた。鳥の胴体には馬に取り付けるあぶみのようなものが付けられている。


「へん、偵察だけで済まそうかと思ったが、気が変わった。ここで正義の神をぶっ殺せば、わざわざ王都の警備を厳重にする必要もねー」

 ゴーグルの男が意気揚々と言う。


「何だ、あの男は」

「おそらく、フェグリナ親衛隊のメンバーでしょう」


「ご明察!俺は”急襲のガルダン”。そしてこいつらは相棒の神鳥、フギンとムニンさ」


 ガルダンと名乗る男を乗せた白い方、フギンが翼を収めたかと思うと突如急降下を始め、地面すれすれのところで軌道を変えてマグナに突撃した。マグナは吹き飛ばされるが鎧で大したダメージには至らない。フギンは突進の勢いのまますぐさま上空へと戻る。


「おいおい衝撃波で傷一つ負わねーから突撃かましてみたんだが、これでもダメかヨ。こりゃー出直した方がいいかな?」


「おやおや、帰られるおつもりですか?まあ、そうはいきませんがね」


 背後から突如声が聞こえた。


 ガルダンは思わず振り返ろうとするが、鎖で首を絞められる。スラは能力で気配を絶ち、フギンが突撃してきた瞬間に上に飛び乗り、ガルダンの背後を取っていた。スラは腰の両側に短剣用の鞘を付けており、柄同士が鎖で繋がれた一対の短剣を装備している。鎖の部分は普段は腰回りに巻いてある。その短剣の鎖部分でガルダンの首を絞めているのだ。


「がっ……!がっ……!」


 ガルダンは苦しそうなうめき声をあげると、たまらずフギンから落下し、地面に叩きつけられた。十メートル以上の高さだ、落ちた場所が草が繁茂している場所だったので多少衝撃は吸収されたかもしれないが、戦闘不能には違いないだろう。


 スラはすかさず短剣をフギンの背に突き刺す。フギンは叫び声を上げながら、きりきり舞いに落下した。黒い方、ムニンもまた急降下を始めるとマグナに向けて突進する。しかしマグナは鎧化した体でそれを難なく受け止めると、胴体に重い拳を叩き込んだ。ムニンもまた甲高い声を上げて地面に伏した。




「ふん、たいしたことなかったな」


 マグナ達はフギンとムニンの翼を縄で縛って無力化した。ガルダンも気を失っている。


「どうするスラ、こいつから情報でも引き出してみるか?」

「いえ、大したことは知らないと思います、時間の無駄でしょう。私の推測ではフェグリナは用心深い性格でしょうからね」

「それもそうだな。ところでスラ、俺はさっきからずっと気になっていることがあるんだが……」

「私もですよ、マグナさん……お二人のことでしょう?」

「ああ……フリーレとラヴィア、どこに行ったんだ?」


 二人は馬車が大破したタイミングから姿が見えない。ひとまずガルダンとの戦闘を優先したが、ケリをつけてしばらくしても、一向に二人の姿が見えない。


「どういうことだ?何故二人の姿が消える?」


「あいにく私にも分かりませんね」


 スラが少し考え込む仕草をした後、マグナに一つ疑問を呈する。


「マグナさん、そういえば馬車が壊れた時、奇妙な音が混じっていませんでしたか?馬車が壊れるのとは全く別の、まるで稲妻が空を走る時のような音が……」


「稲妻……?」


 稲妻と聞いてマグナは一つ連想するものがあった。フリーレの神器、グングニールは投擲時稲妻のような勢いで飛んでいく。それにスレイプニルと対峙していた時、フリーレは投擲したグングニールを即座に掴むことで、長距離高速移動を可能としていた。


 それを思い出した時、マグナの表情が不安に歪んだ。


「……っ!読めたぜ!フリーレのやつ、グングニールで馬車から脱出して、ラヴィアも巻き込んだな……!」

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