第七話 雷牙
何だ、コイツは。
「離さない…離さないからな………おれ…は…だい…丈夫……だから…はな…さな…い…しんで…も……はなさ…な…い…から……」
兄様と俺は顔を見合わせる。
邸の前で両腕を千切られ血まみれでうわ言を言っている何か。
「これ、殺してあげる?」
兄様が何か言い出した。
「馬鹿を言うな、助けるに決まってるだろ。」
しかし不思議だ。
気配は妖怪辺りか?
それにしては澄んでいるな。
「これはもう救いようがないんじゃない?」
「案ずるな、救いようがないのは兄様だけだ。」
「とりあえず、起こそうか。」
「あぁ、それがい」バチン!!!!
は……?
「起きてー。」
兄様…?兄様?兄様??
叩いたのか?瀕死の奴を?
バチン!バチン!
まだ叩いてるな?幻覚じゃないよな?
「兄様!!!!
優しく起こせ!!!
何やってるんだ!怪我人だぞ!!!」
俺はすぐに兄様を止めた。
「えー、でも揺さぶったほうが痛そうじゃない?」
「もういい、俺がやる。」
恐らく痛みで意識が飛んでるな。
神力で痛みを取り除いてやるか。
額に手を翳し痛みを取り除いてやれば男はすぐに正気を取り戻した。
「あ………あれ……?
なんでお前らが…?
あれ?俺の腕は…?
アイツらどこ行った?」
兄様と俺はまた顔を見合わせる。
兄様はいつものように、にっこり笑ってまた彼を見た。
「ねぇ、君誰なの?」
兄様、頼むから殺すなよ?頼むぞ。
「俺……翠。
お前らの邸の座敷童してる。
それより二人は?
りんと白は?」
りん、その名を聞いた途端兄様の顔から笑みが消え彼の胸ぐらを掴み上げた。
「兄様!!!丁重に扱え!座敷童だぞ!!」
「りんに何かあったの?答えろ。」
兄様!なぁ!兄様!!
「怪我をしているんだぞ!兄様!!
先に治してやれ!!!!」
兄様が一瞬で翠の腕を治し再び両腕が戻る。
「早く言え、早く。」
兄様に凄まれても翠は怯まない。
むしろ翠は兄様を睨み返した。
「見りゃ分かるだろ。
腕引きちぎられた挙句に連れ去られたんだよ、りんと白が。」
こ…こいつ……逸材だ。
心臓に毛でも生えてるのか?
兄様と普通に話してる…。
「いつ?誰が?どこに連れて行った?」
「知らねぇよ、気絶してたんだから。」
兄様はさらに翠を釣り上げた。
「お前はどうして生きてるのかな?
二人が攫われてお前だけ生き残っているのはおかしくない?
連れ去った奴と手を組んでるとか…。」
「お前、それ以上ふざけた事言いやがったら邸解体するからな。
俺は今気が立ってんだよ。
友達二人が死んでるかもしれない上にあらぬ疑いをかけられてんだからな。
俺を脅している暇があるなら二人を助けに行くのを手伝え。
お偉い神様なんだからそれくらいできるだろ。」
とても嘘をついているようには見えなかった。
嘘でここまで言えないだろうし、そもそも目が本気だ。
「分かった、そこまで言うなら信じようか。
で?りんはどこに行ったの?
もう一人の贄はどうだっていい。」
いや、よくないだろ。
「白は俺が助けよう。
まずは状況を説明してくれ。
何も分からないのでは探しようがないからな。」
二人とも、どうか無事でいてくれ。
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