努力の天才妖媒師は妖力が尽きなく妖術を乱射するようです。
さい
第1話 鯉の妖怪
放課後の屋上にて。
『緊急連絡だ銀次。水鯉公園で人の見た目をした鯉の目撃情報が相次いでる』
スマホ越しに一人の女性の声がする。
『今すぐ確認してこい。そして、見つけ次第』
「成仏してこいですよね」
『ああ、そうだ』
俺こと銀次玲央、高校二年生にはみんなには言えないとある秘密がある。
それは、妖媒師だということだ。
妖媒師──。
この世界に起こる様々な不思議。
全て妖怪の仕業である。
なんか聞いたことあるフレーズだな……。
まあ、そんな妖怪どもを成仏させる。
それが妖媒師の仕事ってわけ。
んで、ここ水原市の妖媒師は俺一人というわけだ。
ったく、もう少し妖媒師増えねえかな。
妖怪が出現すれば、俺が出動する以外の選択肢がないだなんて酷すぎる。
俺だって好きで妖媒師をしているわけではないというのに。
『任せたぞ銀次』
「はいはい、任されますよ」
しかもだ。
妖媒師は報酬がない。
命を賭けて妖怪と戦うというのに、お金がもらえないのだ。
本当ブラックすぎる。
ちなみにだが、声の主は元妖媒師の朝宮さんだ。
年齢は二十七歳。
よく俺に合コンなどの愚痴をしてくるおばさんだ。
そして、俺の親のような存在。
小学二年のある日、俺の両親は交通事故で死んだ。
朝宮さんは母の妹であり、俺を引き取ってくれたのだ。
目的地である水鯉公園に着くと、当たり一面を見る。
「朝宮さん、見当たらないですよー」
『まあ、どの目撃情報も夜だからな』
「先に言ってくださいよ……」
妖怪は夜に出るイメージがあるが、そんなことはなく朝もガッツリでる。
ただ、妖怪にも朝型と夜型が存在する。
『てなわけで、張り込みよろしくー』
プープー、と電話が切れた。
この人、直接張り込みって言うと俺が嫌がるのわかってたからあえて言わなかったな……。
「はあ〜」
大きなため息を吐きながら、その場に丸くなる。
夜って何時だよ〜具体的に教えてくれよ〜。
明日も学校なのによ〜、本当……。
時刻は午後の八時を過ぎた時だった。
鯉の池をぼーっも缶コーヒーを飲みながら見ていると、
何やら鯉のフォルムをした人間のような足の生えたシルエットが見えた。
ん……、と缶コーヒーをベンチに置いて立ち上がる。
絶対こいつじゃねーか!!
俺は目を閉じる。
ふらっと、身体は魂が抜け空になったようにその場に倒れ、身体から出てきた魂にまるでコピーのようにもう一人の俺が現れた。
幽体離脱だ。
「とっとと成仏させて帰るぜ」
シルエットからしっかりと姿が見えた。
赤い鯉の見た目をしており、人間の手と足が生えていた。
めちゃくちゃ気持ち悪い見た目をしている。
「よお、鯉の妖怪……」
「ギョ? なんだ、お前? 妖気を感じるなあ? もしや、妖媒師か?」
「その通り、俺は妖媒師だ」
右手に妖力をまとわりつける。
「明日、数学単元テストなんだよ……てめーのせいでこうしてここで時間潰してよ、勉強できなかったんだよ……どーしてくれる」
鯉の妖怪は口から鋭く尖った水を吐き出した。
慌ててその攻撃を避けた。
水は後ろのベンチにぶつかり、ベンチが爆発するように粉々となった。
「なっ、何しやがる!? 当たったら死ねだろーが!!」
俺は鯉の妖怪に向かって走り出した。
拳に妖力をどんどんと貯めていく。
「バカめ、そんなに妖力をそそぎこめばすぐに妖力がなくなるに決まってる」
「ふん、バカはてめーだ。いいか、俺はな……」
拳に目一杯、妖力を纏わせて、
「妖力が無限なんだよおおお」
鯉の妖怪の顔面を思いっきりぶん殴る。
「妖拳──ッ!!」
バン!!
と、ものすごい爆音と共に鯉の妖怪は爆発し成仏したのであった。
努力の天才妖媒師は妖力が尽きなく妖術を乱射するようです。 さい @Sai31
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