4-7:トリック・オア・トリート
町には鳥が多かった。
どこへ行っても、見上げてみれば電線の上には鳥がいる。近くの塀の至るところにも姿はあるし、空をめまぐるしく飛び回ってもいる。
野良猫の数も多く、町のあちこちに座り込んでいるのを見た。
それでも、この町の人間たちは気にしない。
鳥たちがうるさく鳴くこともないし、カラスがゴミを荒らすこともない。実害がないから、特に気にしないのかと考えていた。
でも、そんなはずはないのだ。
これほど異常な数の鳥や猫がいるというのに、誰も気にしないはずがない。
では、どうして誰も疑問を示さなかったのか。
「トリック・オア・トリート」
宍戸は軽い足取りで町を歩く。梅嶋家を出て、駅前の通りへと案内した。
彼の手には緑色のカードがある。道をすれ違う人間が現れる度、宍戸はそれを目の前にかざしていた。
「失礼。僕に有り金全部、譲っていただけないでしょうか」
宍戸が気取った口調で命令を出す。話しかけられた中年女は、「はい」とぼんやりとした顔で頷き返す。手提げの中から財布を丸ごと手渡していた。
「お宝ゲットだよ、直斗くん」
宍戸は振り返り、ひらひらと革の財布を示す。
その後も同じように商店街を歩く。前からスーツ姿の男が現れ、宍戸は同じく緑のカードを提示する。「トリック・オア・トリート」とわざと口にした。
「お菓子を持っていたら、分けてください」
彼が命じると、相手の目から光が失われた。「ガムでいいですか?」と胸ポケットから包みを出してくる。「ガムはお菓子に入りません」と宍戸はすぐさま却下した。
買い物をする学生、主婦、老人、子供、近くの店の主人。出会う全ての人々に、宍戸はカードをかざしていった。「ハロウィンは昨日で終わりだったね」と残念そうに呟く。
町の人々は誰ひとりとして、宍戸の言葉に抵抗しなかった。金を寄越せと言われても、お菓子をくれと言われても、靴を磨けと言われても、彼らはあっさり従った。
「まあ、大体こんなところかな」
駅前通りを歩き終え、歩道橋へと差し掛かる。宍戸は階段を登り切り、上機嫌に笑いかける。「チョコレート食べるかい?」と手に入れた一枚を差し出した。
「とりあえず、これでわかってくれただろう」
直斗がチョコの受け取りを拒否すると、宍戸はまたカードを示した。
午後の太陽の光を受け、カードは緑色に照り映える。「これが事実だよ」と宍戸は言い、満面の笑顔を見せた。
「この町に住む全ての人々は、『緑のカード』で操れるんだ」
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