第4話 正義の影

学校生活に慣れてきた直樹は、陽菜や拓海と共に過ごす時間がますます充実していた。しかし、彼の心の奥には、過去の自分を忘れられないという思いがずっと残っていた。外科医としての責任感と正義感が、今の自分にどう関わるのかを常に考えていた。


ある日の放課後、直樹は部活動が終わった後、図書室で勉強をしていた。すると、突然、廊下から大きな声が聞こえてきた。


「何やってんだ!お前なんかに構うな!」


誰かが怒鳴っている。直樹は心臓が高鳴るのを感じた。声の主が誰かをいじめているのではないかと、直感的に感じたのだ。彼は本能的に立ち上がり、声の方へ駆け寄った。


廊下に出ると、そこにはまたもや先ほどのいじめっ子がいた。彼は別の後輩を押し倒し、笑いながら周りの仲間とともに威圧していた。直樹の心は怒りで燃え上がった。彼は毅然としてその場に踏み込む。


「やめろ!そんなことして何になるんだ!」


いじめっ子は振り向き、直樹を見て不敵な笑みを浮かべた。「お前、また来たのか?何も変わってないな。どうせお前も、ただの高校生だろ?」


その言葉が直樹の心を刺す。しかし、彼は怯まずに応じた。「たとえ高校生でも、間違ったことを見て見ぬふりはできない。お前のやっていることは、ただの弱い者いじめだ。」


周囲の生徒たちは静まり返り、直樹の言葉に耳を傾けていた。しかし、いじめっ子はさらに挑発してきた。「お前なんかに何ができる?自分を守ることもできないくせに、偉そうにするな!」


その瞬間、直樹は一瞬、過去の自分を思い出した。医者としての経験の中で、時には自分を守ることができなかった場面があった。しかし、今は違う。彼は自分の意志を持って立ち向かっている。


直樹は冷静さを取り戻し、少し身をかがめた。「自分を守るために、他人を傷つける必要はない。強い者は、弱い者を守ることが本当の強さだ。」


直樹の言葉に反応したのは、他の生徒たちだった。彼らが一緒に立ち上がり、直樹の言葉を支持し始めた。陽菜や拓海もその場に駆け寄り、直樹の側に立って一緒に彼を応援した。


「お前は間違ってる。みんなが傷つくのを見て何とも思わないのか?」拓海が声を張り上げた。


いじめっ子は一瞬ひるんだが、周囲の反応を見て怒りを増した。「俺たちを舐めるな!」と叫び、仲間を引き連れて直樹に向かって来た。


直樹は心の中で「逃げるわけにはいかない」と思い、立ち向かう覚悟を決めた。だが、その時、後ろから小さな声が聞こえた。


「やめてください!」


後輩の声だった。直樹は振り返ると、勇気を振り絞って立ち上がっているその姿を見て、思わず心が温かくなった。彼女の決意が、直樹に勇気を与えていた。


直樹はその声に応え、後輩の隣に立った。「俺たちは、誰も一人にはしない。みんなが支え合うことが大切なんだ!」


その言葉に周囲の生徒たちも勇気を振り絞り、次々と直樹の側に集まった。仲間の存在を感じた直樹は、心の中で決意を新たにした。


「お前たちはもう終わりだ。この学校では、いじめは許さない!」


直樹の声は、力強く響いた。彼の姿は、弱い者を守るために立ち上がった正義の象徴になった。その瞬間、周囲の生徒たちの心が一つになり、いじめっ子たちを追い詰めていった。


そして、いじめっ子たちは数の圧力に押され、ついにその場を離れていった。


直樹は、仲間たちの支えによって、自分の正義を貫くことができた。彼の心に芽生えた新たな希望が、確かなものとなったのだった。

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