第17話「私たちの本当の姿を、みんなに見せる時が来たのね」

 アカデミー・ルミエールの空中庭園は、夕暮れ時の魔法の光に包まれていた。浮遊する小島に築かれたこの庭園では、重力魔法によって水が逆流する噴水が、七色に輝く光の粒子を散りばめていた。エリオット(エロイーズ)とルーシー(ルシアン)は、この幻想的な風景の中で、互いの手を取り合っていた。


「ルーシー、俺は……いや、私は決めたんだ」


 エリオットの声には、決意と不安が入り混じっていた。その碧眼には、夕陽の光が映り、まるで燃えるような輝きを放っていた。


 ルーシーは、エリオットの言葉に息を呑んだ。彼女の琥珀色の瞳に、驚きと期待が浮かぶ。


「エリオット……あなたは……」


「ああ、もう隠れて生きるのは嫌なんだ。俺たちの本当の姿を、みんなに見せたい」


 エリオットの言葉に、ルーシーの心臓が高鳴る。彼女の周りを漂う雷の粒子が、その興奮を反映するかのように、より激しく明滅し始めた。


「私も……そう思っていたの。でも、怖くて言い出せなかった」


 ルーシーの声は震えていた。彼女の赤褐色の髪が、風に揺られて顔を覆う。エリオットは優しくその髪をかき上げ、ルーシーの頬に触れた。


「怖いのは俺も同じさ。でも、お前と一緒なら……」


 エリオットの言葉が途切れる。彼の周りを漂う風の精霊たちが、その想いを感じ取ったかのように、二人を優しく包み込む。


 ルーシーは、エリオットの手をぎゅっと握り返した。彼女の目に、決意の色が宿る。


「私たちの本当の姿を、みんなに見せる時が来たのね」


 エリオットは静かに頷いた。その瞬間、二人の体が微かに光り始める。それは、彼らの心の中で燃え上がる決意の表れのようだった。


「でも、どうやって伝えればいいのかしら……」


 ルーシーの言葉に、エリオットも考え込む。確かに、単に「実は俺たち、性別が逆なんだ」と言っても、誰も信じないだろう。


 その時、空中庭園の入り口から声が聞こえた。


「二人とも、こんなところにいたのね」


 振り向くと、そこにはクロエが立っていた。彼女の周りには、いつもの薄い霧が漂っている。


「クロエ! 実は、お前に相談があるんだ」


 エリオットがクロエに歩み寄る。ルーシーも続く。


「何かしら? 二人とも、妙に真剣な顔をしているわね」


 クロエの声には、心配と好奇心が混ざっていた。エリオットとルーシーは顔を見合わせ、小さく頷いた。


「クロエ、俺たち……みんなに本当の姿を見せようと思う」


 エリオットの言葉に、クロエの目が大きく見開かれた。


「え……!? 本当に?」


「ええ、もう隠れて生きるのはうんざりなの」


 ルーシーの言葉に、クロエは深く息を吐いた。彼女の表情が、徐々に柔らかくなっていく。


「そう……二人とも、よく決心したわね」


 クロエの言葉に、エリオットとルーシーは安堵の表情を浮かべた。


「でも、どうやってみんなに伝えるつもりなの?」


 クロエの質問に、二人は再び困惑の表情を見せる。しかし、クロエはすぐに続けた。


「私に良いアイデアがあるわ。明日の魔法実践の授業で、変身魔法の実演をすることになっているでしょう? その時に、二人で本当の姿に戻ればいいのよ」


 エリオットとルーシーの目が輝いた。確かに、それなら自然な形で真実を明かせる。


「クロエ、お前は天才だ!」


「本当に素晴らしいアイデアよ!」


 二人の言葉に、クロエは嬉しそうに微笑んだ。


「当然よ。私はあなたたちの親友なんだから」


 三人は、互いを見つめ合って笑った。空中庭園の花々が、彼らの決意を祝福するかのように、一斉に香りを放った。


 その夜、エリオットとルーシーは、それぞれの部屋で明日への決意を胸に秘めながら、眠りについた。彼らの夢の中で、風と雷の精霊たちが、美しい舞を披露していた。それは、明日への希望の光のようだった。

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