男装王女と女装王子の秘密の恋 〜魔法学園で紡ぐ運命の絆、あるいは風と雷のシンフォニア〜

藍埜佑(あいのたすく)

第1話((なぜ、こんな奴と同じクラスなんだ!?))

 エーテリアの首都ルミエールの空は、常に魔法の光で彩られていた。七色に輝く魔法の雫が空中を漂い、街の至る所で魔法使いたちが日常的に呪文を唱える様子が見られる。その中心に佇む巨大な水晶塔、それがアカデミー・ルミエールだった。


 新学期の朝、エロイーズ・ラルーンは深い息を吐きながら、自身の姿を鏡で確認していた。金髪を短く切り、豊かな胸をむりやり押さえつけ、男性用の制服を身につける。そして最後に、男性用の偽名「エリオット」を心の中で唱えた。それは彼女にとって、毎日の儀式のようなものだった。


「大丈夫、誰にもバレない。私はエリオットなんだ」


 そう自分に言い聞かせながら、エロイーズは学園へと向かった。


 一方、ルシアン・トネールも同じように準備をしていた。長い赤褐色の髪を丁寧にとかし、薄いメイクを施す。女性用の制服を着こなす姿は、誰が見ても美しい少女そのものだった。彼も心の中で、女性用の偽名「ルーシー」を繰り返した。


「これで完璧だわ。私はルーシーとして振る舞わなければならないのだから」


 鏡に映る自分に満足げに頷き、ルシアンは静かに部屋を出た。


 アカデミー・ルミエールの入学式。巨大な講堂に集まった新入生たちの中で、エリオット(エロイーズ)とルーシー(ルシアン)は互いの姿を初めて目にした。講堂の天井には、星座を模した魔法の光が浮かび、新入生たちの頭上で優雅に舞っていた。


 エリオットは、ルーシーの姿を見て思わず眉をひそめた。ルーシーの制服には、高度な変身魔法で作られた繊細な刺繍が施されており、それは並の魔法使いには真似できない技だった。


(なんて生意気な女だ。あんなに着飾って、魔法の勉強なんてする気あるのか?)


 一方、ルーシーもエリオットを見て、内心で舌打ちをした。エリオットの立ち姿には、高貴な者特有の気品が漂っていたが、それを隠そうとする不自然さが見え隠れしていた。


(ふん、随分とすかした男だわ。学園の規律も知らないのかしら?)


 二人の視線が交差した瞬間、互いに「嫌な奴」だと確信した。しかし、運命の悪戯か、二人は同じクラスに配属されることになる。


((なぜ、こんな奴と同じクラスなんだ!?))


 二人の心の中で、同じ叫びが響いた。その瞬間、講堂の魔法の光が激しく明滅し、まるで二人の運命の交錯を予見しているかのようだった。

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