最終話・still Alive-まだ、生きている-

 百鬼なぎりとリュウセイは異世界へと追い返した。サンダードラゴンはレナのペット兼ボディガードになり脅威は去った。


 だけど最後にひとつ、ものすごく大きな問題が残っている。


 マスコミに中継され、黄泉がえりの私と異世界人の存在が世の中にばれてしまったことだ。

 図らずも、親父が言っていた『一番取ってはいけない方法』を実践してしまったのだ。


 どうやって誤魔化せばよいのだろうか? 映画撮影とか吸血金魚はさすがに通用しないよな。と思考を巡らせていたら、親父が予想外の一手を打ってきた。


「おい、アカリ。モサモサのチョーカーを渡せ」

「え?」

「みんなもだ」

「お気に入りだったのににゃ〜」


 親父は次々と回収していき、あとはあまぐりだけになった。


「拙者のドッグタグもでござるか?」


 しかしあまぐりは、ここにきて一人だけ渋った。


「もちろん」

「しかし、これがなくなると拙者は……」


 それもそのはず。ドッグタグを渡せば、即子犬に戻ってしまう。そして、変身する為に必要な魔力を蓄えるには相当な時間がかかる。


 モサモサのドッグタグは、あまぐりが魔力を蓄える速さや容量の底上げの役割もあったようだ。


「あまぐり。だ。それを渡してくれないか?」


 このキーワードに弱いことを知りながら、わざと使う親父。


「仕方ないでござる」

「すまん、あまぐり……」


 あまぐりは、黙ってドッグタグを首から外し、親父に手渡した。そして……


「きゅぅん……」


 その寂しそうな鳴き声を聞いたらなんだかたまらなくなってしまい、私はあまぐりを抱き上げていた。


「ありがとう……」


 親父はトーテムポールの破片を確認すると、私たちに念を押すように口を開いた。


「いいか、今後はなにがあっても記憶にないで通せ。それ以外はひと言もしゃべるな」


 それだけ言い残して、校門へと向かって行く。いったいなにをする気なのか、私もみんなも黙って注視していた。



「マスコミさん、ちょっとカメラこっち向けて。あ、マイク借りるよ」


 テレビカメラにむりやり映り込み、強引にマイクをひったくる親父。誰がどう見ても『借りる』ではなく『強奪』だった。


「あーあー、んん……今ドラゴンと戦っていた彼女たちのは我々が頂いた」


 突然始まった訳のわからない話に、その場の全員が注目する。


「我々ってなんですか……もう、私を巻き込まないでいただきたい」


 ……しかし、時すでに遅し。ガッツリと2ショットでカメラに抜かれてしまい、ため息をつくデスショット。


 レポーターの女性は予備のマイクを手に取ると質問し始めた。


「そ、それはどういう意味ですか?」


 この状況でインタビューするとか、とりあえずプロ根性は残っているみたいだ。


「戦っていたのはこのチョーカーの力。これを奪った以上あそこにいる彼女たちは全くの無力だ。そして記憶も消させてもらった」


 親父はなにをやろうとしているのか? わけもわからずにいると、私の表情から察したおいもさんが『あれは覚悟の話や』とひと言だけ呟いた。


 ……余計わけわからん。


「我々が開発した”これ“さえあれば、ドラゴンですら手懐けられる。世界征服も可能になるだろう」


 方々ほうぼうからザワザワとした声が聞こえてくる。『世界征服』なんて現実味のない笑い話だけど、ドラゴンの脅威を見た今ならその言葉から受ける印象はだいぶ違う。


「あなたはそれを、軍事国家に売り込もうとでもしているのでしょうか?」


「その為のデモンストレーションだ。あの娘どもには礼を言っておこう」


 両手を広げて天を仰ぎながら、まるで物語の悪役のごとく話す親父。意図的に敵対心を煽っている様にもみえる。


「はっはっは。ではさらばじゃ! 行くぞ、ドリア!」


 そのひと言を最後に、親父とデスショットは姿を消した。


「キョウジのやつ、相変わらずやな」

「……?」

「つまりや、ここにいる全員が記憶にないって言い張れば、事実を知り力を持った人間はあの二人ってことになる」


「アカリんパパはウチらを守る為にあんなことを?」


「そうやな。今後世界中から追われるのはキョウジとデスショットってこっちゃ」


「パパさん大丈夫なのかにゃ?」

「ま、平気やろ。異世界で生き抜いてきた二人や。そう簡単に捕まえられんで」


 それならそれで、ひと言説明してくれてもいいじゃん。相変わらずなんだから……ってか、ドリアってなんだろ?



「あのさ、角セン」

「ん? 琴宮どうした」


「死ぬって……なんなのかな?」


 私は感じたまま、角センに質問をぶつけてみた。今まで意識したことはなかったけど、トラックにひかれたあの日から、考えさせられることばかりだった。


「人が死ぬのは、身体がなくなった時じゃない。残った人の心から忘れさられた時なんだ」

「それは、百鬼なぎりやレナの兄貴はまだ生きていることだよね」


 ……実際に生き返ってはいるけど。


「そうだな。たとえ肉体が滅びても、歩んだ足跡は絶対に残る。それが生きるってもんだ」


 角センせんは、『また百鬼なぎりたちが来たらすぐにおしえてくれ』と言っていた。どうやらまだ説得を諦めていないらしい。



「——ああ、まずいにゃ」


 とりあえずはこれでひと段落か、と思った瞬間、レナがなにかに反応して走り出した。


「行くぞ、山田やまだ!」

「サンダーじゃ!!」


「レナ、どうしたの?」


 まさか、まだ敵がいるのだろうか? と思い周囲を警戒していたら、クミコがスマホの画面を見せて来た。


 ――11時58分。


「あ〜、なるほど」


 ポンッと納得。

 きっと……いや、間違いなく“限定・塩カルビやきそばパン”を買うために、購買へダッシュしているのだ。


「レナ〜、私の分もお願い」

「あ、ウチのも~」

「オケまる!」


「もうお昼か~、お腹減るわけだよね」


 考えてみれば、おなかが減るって現象も生きていればこそなわけで。

 

 ……これもまた『足跡』のひとつなのかもね。







 その後クミコは、ミーハーズに推し活の極意をおしえ、タケちー親衛隊を結成。『いつも空手試合の観客席にいる推し活女子』とネットで話題になり、一躍有名人になっていた。


 聞くところによると芸能事務所から声がかかっているらしいけど、本人たちにはまったくその気がないらしい。


 ……ちょっともったいない気がしないこともない。



 レナの親父さんは今回の一件を受けて、会社を辞めて帰って来たそうだ。長いあいだ家を空けていたことに、本人も相当悩んでいたらしい。


 私の親父が戦場カメラマンをやめた時、母さんが『収入よりも安心を得た』と考えたように、レナのお母さんも気持ちの上で楽になってくれたらと思う。



 そして私はというと、あれから毎日騒がしい日々が続いている。


「しっかし、タケルの体は最高やったわ~。やっぱりあの身体しかあらへん」

「ダメだって!」

「ワイ、タケルが欲しいねん。あの身体が忘れられないねん」

「……言い方」

「まあ、言うて嬢ちゃんたちに殺させるのは無理やからな。服毒自殺する様に誘導してみるか」


 ……本当にやりそうで怖いわ。


 当のタケルは、あまぐりと張り合いの日々。 毎日毎日よく飽きないものだ。


「あまぐり、アカリちゃんにくっつくなってば!」


 ――ポンッ!


「きゃうん!! グルルルル……」


 ――ポンッ!


 興奮するとイケメン化する光景もすでに見あきてしまった。


「アカリ、俺様と結婚しろよ」

「それは拙者の役目でござる」

「ふざけんな、表出ろコラ!」

「望むところでござる。今日こそ決着を……」


 と、胸倉をつかみ額を突き合わせるタケルとあまぐり。腐女子ならこの組み合わせでBLとかやりそうな絵面だ。


「ええい、無駄に変身すな!」


 また、いつ異世界人が襲ってくるかわからないんだからさ、魔力は温存しておいてくれ。


「それはそれとして、とりあえず死体探しを再開しないとだね」


「あ、そや……」

「どしたの、おいもさん」

「超重要なことを思い出したのやが」

「な、なに?」


 なんか怖いんだけど……。


「あのな、死体探しにイケメンって条件あったやろ?」

「うん、それ諦めるとか?」

「アホぬかせ。んな訳あるかい!」

「んじゃ、なによ……」


「イケメンもええんやが」

「ゴクリ……」

「美少女でもええなぁ~」



「……かんべんしてよ、もう」






             完

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