第23話・モサモサ族、あなどれん。
学校が休みになって四日がすぎた。
あと一回くらい死体探しに行けそうって話になって、またもや地道にローカル新聞のチェック作業を開始。
クミコとタケルは北海道から、私とレナは沖縄から、朝からパソコン画面とにらめっこだ。
しかし初日の大当たりがうそのように、これっぽっちも魔力持ちの死体が見つからない。
「逃した魚はデカいって本当よね~」
「ま、しかたあらへん。子供が泣くのだけはかんべんやで」
そのまま一日が過ぎ、二日が過ぎ、みんなの気持ちに焦りが出てきた。
そして今日で休みが終わりという日、親父が木彫りの小玉が三つついたコードチョーカーを手渡してきた。
私たちが死体探しをしている間、庭に散らばっていたトーテムポールの破片を削り、お守りを作ってくれていたそうだ。
「モサモサのあれ、本当に魔力がこもっていたんだ……」
「ま、ちょっとしたバリアのようなものだ。これで異世界人の魔力感知にかかりにくくなるはず」
「アカリんパパ、センスいいよね~」
「シンプルでかっこいいにゃ~」
さっそくつけるクミコとレナ。かなり気に入ったみたいだ。
今までなら、1キロ先でも魔力持ちの地球人は感知されていた。
それがこのお守りのおかげで、数メートル程度まで近づいてやっと、ぼんやりと魔力持ちがいると感じるくらいになるらしい。
「あと、タケルはこっちを使え」
と、木彫りの玉を連ねたブレスレットを手渡す。
「お前は魔力が目立ちすぎるから、このくらいの量があった方がいいと思う」
「あ、ありとうございます」
「いうて、嬢ちゃんやショタ坊の学校はバレてるからな。十分警戒が必要やで」
本来モサモサ族のトーテムポールは、家を災害などから守る為の守護像だ。
家の中に置いておくだけで外敵から守ってくれる、いわばマジックアイテムだという。
今思えば、家にいる時おいもさんの魔力が感知されなかったのは、トーテムポールのおかげだったのかもしれない。
「モサモサ族、あなどれん」
「あとな……あらかじめ襲われそうな魔力持ちを探しておく必要もあるんじゃないか?」
これは、おいもさんを狙って転移してくる異世界人が、自身の魔力補給の為に地球人を襲うケースへの対応ってことだ。
親父曰く『異世界人は地球にいるだけで魔力が減っていく』とのこと。
実際にタケルも異世界人に襲われたのだから、他にも魔力持ちが狙われる可能性があるのは想像に
「もしかしてさ、これってけっこう
更には、魔力持ち死体の取り合いになる可能性もあるのだから。
「そやな。下手すると全人類巻き込んでの戦争になるかもしれんで」
「戦争って……」
「世界は日本みたいに“ことなかれ主義”の政府ばかりじゃない。自国民が襲われたら、すぐ報復にでる国もあるだろう」
戦争なんて実際にどんなものか知らないけど……
「もしそんなことになったら死ぬ人が大勢出るんだよね?」
「ああ、実際ありうる話だ。わかっていると思うが、あいつらは手段を選ばない。地球がどうなろうと、異世界に逃げ帰ればいいんだからな」
「親父、おいもさん。私はどうすればいい?」
「今考えられるのは二通り……いや、三通りか」
親父は、あごの無精ひげを指先で引っぱりながら、確認するかのように話し始めた。
「ひとつは、現状を公表して自衛隊や諸外国の協力を仰ぐ」
「ま、これが一番簡単やけど、一番の愚策やで」
親父の言葉を即否定するおいもさん。しかしこれは織り込み済みのようで、少なくとも二人の間には共通認識があるみたいだった。
「そうなの? 世界各国で協力して異世界人を追い返すって、凄くイイと思うんだけど。それに魔力持ちの保護とかもしやすくない?」
「前にも話したんやが、魔法とか蘇生とか今の地球にはないもんや。嬢ちゃんたちは研究対象にされる未来しかないで」
「それに、世界を牛耳りたいと思っている国はいくらでもある。そいつらがもし異世界人と手を結んだらどうなると思う?」
例えば、あの魔術師とどこかの軍事国家が組んだとしたらってことか。
「戦争以外にも暗殺とかいろいろヤバそう」
「……そっか。結果として、戦争に一番近い選択になっちゃうね」
クミコのこのひと言が全てを総括していたのだと思う。
「いいか、これは“一番取ってはいけない方法”ってことで覚えておくんだ」
親父はそんなクミコの言葉にうなずきながら、一つめの策を否定していた。
「二つめは、こちらから異世界に乗り込んで、ヤツらの本拠地をぶっ潰すこと!」
「ま、これは『言ってみただけ』ってやつやな。実際むりやし」
またもや
「でも、上手くいけば問題を根底から解決できそうだけど?」
「上手くいく以前の問題やで。そもそも、どうやって異世界転移する気なんや?」
「あ……」
なんか、おいもさんや親父が転生したとか転移したとか普通に話しているから、簡単にできるような錯覚におちいってた。
「地球の技術で転移できるなら、
「でもさ、異世界転生ってあるんだから、誰かに頼めばいいんじゃない?」
「アカリ、そんなファンタジーを信じてトラックに飛び込む
……いるわけない。
「もしギャル子やレナ子が『やる』いうたらやらせるんか?」
「いやいやいや、ダメダメダメ。絶対に止める」
「ん? あーしやってみようかにゃ~」
とニヤっと笑うレナ。私をからかうつもりでいったのだろうけど、さすがにいい気分はしなかった。
私は、一口サイズの“特製ミルクチーズバームクーヘン”をフォークに刺し、レナの口元に持っていった。
はむっと食べようとする瞬間、バームクーヘンを引く私。そしてなにもない空間を食べるレナ。
「うう、ひどいにゃ~」
「……やめる?」
「やめるにゃ」
即答したレナはミルクチーズバームクーヘンをパクリと食べると、陽だまりの猫みたいな幸せそうな表情になっていた。
「もし仮に、なんらかの方法で異世界に行けたとして、だ」
そして二つめの否定。これが、親父が一番いいたかったこと。
「あちらさんだって、ひとつの世界でありひとつの国でありひとつの社会なんだ。人ひとりの力でどうこうできる話じゃないぜ」
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