第22話・これがぢょしこうせいの……

「……私、強くなりたい」

「唐突だな、おい」


 親父からはそう感じるだろうけど、私にしてみれば屋上で戦った時からずっと考えていることだった。 


「殺すとかじゃなくて、その、みんなを守れるだけの力が欲しい」

「アカリ、俺とお前が試合したらどっちが勝つと思う?」

「わからないけど、負ける気はしないよ」


 親父と戦ったらなんて考えたこともなかった。……まあ、普通は考えないだろうけど。


「だろ? 俺も勝てる気がしねぇ」

「……それ、自分の娘に言う言葉じゃないっしょ」


「自分より弱いヤツに教えを乞うんじゃねえ」

「そういわないでさ~。異世界帰りなら戦い方とか知っているんじゃないの?」


 私は二度も、クミコたちを危険な目に遭わせてしまった。


 もう、二度とあんなのはごめんだ。


「ん~、そうだな……俺が教えられることと言ったら」


 親父はしばらく考え込むと、『ああ、そうだ!』と急に思い出したように口を開いた。


「モサモサ族のトーテムポールはどこにある?」

「にゃ⁉」

「あれは樹齢3000年の木が使われていて、魔力を増幅する力があるんだ」


 一瞬、ビクッてなったレナ。目を泳がせながらロボットのようにぎこちなく顔を向けてきた。


「足の怪我も一発で直るぞ。早く持ってこい」

「え、うそ⁉」


 まさか、そんな効果があったなんて。ボロボロに壊して燃えるゴミに出したなんて言えないぞ。


「ま、うそだけど」

「……ぉぃ」


 モサモサ族のトーテムポールを破壊した実行犯のレナは、テーブルにして安堵の表情を見せた。


「……め、めちゃくちゃ焦ったにゃ」


「そうだ、母さんも異世界人だぞ。魔力の扱いは俺よりも上手いし」

「え、うそ、母さんまで⁉」


 みんなが驚いて視線を向けると、母さんはニッコリと微笑んでVサインを見せてきた。そして……


「そんなの、うそに決まっているじゃない」

「だよな。俺は知ってた」


 と、親父の腹立たしいひと言。……ちょっと拳がプルプルしてきた。


「あのさ、なにふざけてんのよ。こっちが真剣に聞いているのに……」

「まあそういうな。ここからは真面目な話だ」


 なんのためにこんな回りくどいことするんだろ。……次やったら一発入れる。絶対に入れてやる。


「実は、日本政府はすでに異世界の存在を把握していてな。数年前から研究機関が稼働しているんだ」


「ふ~ん。……それもうそ?」


「いや、マジだ。魔力の使い方から増やし方、ダメージの回復方法まで多岐たきに渡る項目で理論を確立している」


「なんやと、ワイもそんなん初耳やで?」


 ……ニヤリ、と口角を上げる父親。


「あれ? やっぱり……うそ?」


「うっそぴょ~ん!」


 一発殴ってやろうかと立ち上がった私を、羽交はがめにして『まあまあ』といさめるタケル。


 ここまで馬鹿にされたら怒らない方がおかしいと思う。真剣に聞いているのにふざけた返事ばかり。


「なあアカリ。お前、今さ……」

「なによ……」

「俺との1分に満たない会話の中で、何回動揺した?」

「……え?」


 ――瞬間、殺気を感じる声になる親父。



 私はその言葉に恐怖を感じてしまった。これが異世界を生き抜いてきた人間の迫力なのか、と。


 これにはクミコもレナも真顔で引いていた。それが当然だと思う。タケルですらも身動きが取れないほど緊張しているのだから。


「ああ、そうやった。キョウジの得意なのはこれやったわ」

「お、おいもさん……どういうこと?」


「ハッタリや、ハッタリ。嘘、誤魔化し、デマ。キョウジは対峙した相手を言葉で混乱させて勝つ頭脳派やったわ。うん、基本アホやけど頭脳派やった」


「相変わらずひと言多いぞ」


 と、一瞬にしていつものふざけた表情に戻る親父。


 からかうような言動や嘘、デタラメ。それらすべて、自分のペースに引き込むための布石ふせきだったのか。


 適当にいっているように見えて、心理的にゆさぶる戦い方。


 今思えば、学校で襲ってきた魔術師も昨日の白装束の中身も、無駄口と思えることをいいながら戦っていた。


 私はイライラさせられ、自分のペースを乱していたと思う。


「戦いながらこれをやるの?」

「おう、頭使うぞ。きっちり勉強して語彙力も高めとけよ」


 ……やぶへびだった。


「わかりやすくいえば、あっちむいてホイで右を向かせたら左からのパンチが入りやすいってことだ」


 ……もうちょっとマシな例えはなかったのか?


「ところで、親父って魔力持ってるんだよね?」


 せっかく魔力が身体に流れているのだから、有効的に使う方法があれば知りたいと思っての質問だ。


 しかし最初に口を開いたのは親父ではなく、意外にもクミコだった。


「アカリんパパにはあまり感じないのよね、異世界人特有の魔力ってやつ」

「え、クミ、なんでわかるの?」


「ん~、なんとなく……アカリんは感じない? なんかこう、ぬめぬめ~に包まれたトゲトゲ~っとした魔力」

「あ、それ僕もわかる」


「タケルもか~。私は……うん、わからん」

「あーしもわかるにゃ~」

「え~……」


「ま、俺の魔力はアカリが生まれるころには枯渇してたから、わからなくても仕方がない」


 どうやら異世界人は、地球上では生きているだけで魔力を吸い取られるらしい。


「俺はさ、地球が“異世界人を地球人にするために”デトックスしてんじゃないかって思ってんだ」


 しかし、地球人が持っている魔力は吸い取られないでそのまま残る。残念ながらその理由まではわからないそうだ。


 そして一番の問題は、今戦っている相手は失った魔力を補充するために、魔力を持っている地球人を襲うってことだ。


「そいえばギャル子、おまえ昨日の異世界人がすぐわかってたな」


 そうだ、近づいて来た二人組に躊躇ちゅうちょなくエアガンを撃ち込んで『異世界人』って断言してたな。


「宝生ちゃん、ちょっと手を出して」


 親父は手相占いでもするかのように、差し出されたクミコの手を取るとじっと見つめた。


 いつになく真剣な表情の親父がそこにいる。


「ふむ……やわらかい。これがぢょしこうせいの手か」


 ――パンッ!


 私のこぶしよりも早く、母さんのスリッパが親父の後頭部を直撃していた。


「冗談だってば、もう」


 ナイス、強襲攻撃アサルト・スリッパ


「宝生ちゃんさ、君、魔力が流れはじめてるよ」

「ウチに魔力が?」


「ああ、鉄に磁石を近づけておくと磁石化するようなもんだな」


「やはりそうか~。ワイも『もしかして』とは思ったけど、鑑定できへんからな」

「ただ磁石と違うのは、しばらくたてば魔力は抜けていくってことだ」


 逆に言えば、おいもさんの近くにいると魔力を帯びたままになってしまうのか。


「おい、キョウジ。レナ子やタケルはどうや?」


 おいもさんのひと言でレナに目を向けると、すでに親父が彼女の手の平をじっと見つめていた。


「ふむ、ぢょしこうせいの……」


 ――パンッ!


「だんしちゅうがくせいの……」


 ――パパンッ!!


 結果、レナも異世界人を判別する程度の魔力を帯びているらしい。


 というかタケルは元々魔力持ちなんだから、鑑定する必要ないじゃん。


 ……ってあれ?


「ねえ、なんで私は人の魔力がわからないの?」

「言われてみれば……なんでやろな。ワイの魔力を全身に流しているのに不思議やで」


「アカリの場合はなにもかもイレギュラーだから、判断できる材料が少なすぎるんだ」

 

 もう、私だけ敵がわからないなんてひど過ぎじゃない?


「安心しろ、アカリ」

「親父……」

「俺にもわからん」


 ……慰めになってないわ。






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