第13話・ああ、尊死。
学校が休みになり、死体探し
私たちは準備をととのえて、クミコの家に集合することになった。
「タケル、準備できた?」
「あ、待って。あとちょっと……」
「ショタ坊、いくら初めてのお泊りだからって気合いれすぎや」
「こら、いいかた」
「アカリちゃんとお泊り……」
「タケルも顔赤くしないの!」
もう、こっちまで意識しちゃうじゃないのよ。クミコはやたらとくっつけたがるし、この旅でおかしなことにならなければいいけど。
「荷物はできるだけ少なくね。身軽に動けるように」
「そのわりに、嬢ちゃんのボストンバッグはパンパンやな」
「ふっ……乙女に必要な物がつまっているのよ!」
私やタケルが持っている青いボストンバックは、市が指定している学校用のものだ。シンプルだけどマチがしっかしていて、見た目よりも物が入る優れものだった。
「まあ、それはええとしてや。嬢ちゃん、あまぐりも連れていくんか?」
「え~、あんなちいちゃい子犬を連れて行くわけにはいかないっしょ。だいたい、家においてき……」
「きゅぅ~ん」
「って、うそぉ~ん。足元にいるぅ~」
なんてこった、家からついてきちゃったのか。……今の今まで気がついていなかったよ。
「あまぐりは絶対について行くって言うとるで?」
しっぽを振りながら私の足にスリスリしてくるあまぐり。う~ん、このままクミコの家に集合する予定だから、ここに放置するわけにもいかないし……
「仕方ないなぁ。クミにペットキャリー借りるか」
「ダメ。絶対にダメ!!」
「タケル?」
私が抱きあげたあまぐりを引き離そうと手を伸ばすタケル。しかしあまぐりはタケルの手を『ぐるるる……』とうなりながら、うしろ足でペシペシと叩く。
「なんやショタ坊、子犬に嫉妬か?」
「そんなんじゃ……」
「そうなんやろ」
「……」
「はいはい、じゃれ合いはそこまで。さっさとクミん
そのあとクミコの家に着くまで、タケルはあまぐりを引き離そうとちょっかいを出していた。
……ペットに嫉妬って『なんだそれ?』って感じ。あまぐりと結婚するわけじゃないのに。
♢
クミコの家は俗にいう豪邸で、この近辺では“お宝邸”と呼ばれている。
彼女はいわゆる財閥令嬢というやつで、父親は不動産経営から飲食業まで幅広く手がけているそうだ。
「なんか、いつきても緊張するわ」
「ぼ、僕も……ここにいていいのかわからなくなる」
「わかるにゃ~。あーしもだし」
と、メイドさんが出してくれた高級菓子をほおばり、
それにしても、食べてる時のレナって本当に幸せそうでうらやましくなる。
「ねぇ、クミ。死体って具体的にどうやって探すつもり?」
「方法はいくつか考えてあるんだけど、まずおいもに少し確認させてもらえる?」
「なんやギャル子。手っとり早く済ませてくれ。ワイ、魔力込めで疲れとるんや」
……それやったの私だけどね。
結局、深夜3時頃まで魔力込めをして、レナの20球とクミコの100発が限界だった。
「ちょっとこれ観て」
クミコはテレビとパソコンの電源を入れて、両方が見える位置においもさんを置いた。テレビは国会中継、パソコン画面はどこぞやのムーチューバ―が、繁華街で通行人にいたずらをしかける動画だった。
「これでさ、魔力を感知することってできる?」
「そやな……一番うしろの居眠りうすらハゲ議員は魔力持っとるで。あとはこのスジ張ったやかましいオバはんとか。ま、どっちも微量でこれだとないに等しいな。あと、見るに堪えん顔やからトイレに流した方がええで。そんで、こっちのムーチューブの動画に映ってるヤツらもちらほらと察知できる。ただ、どいつもこいつもカエルのしょんべんやで、屋根職人のふんどし見ていた方が数億倍マシや」
「そういう話じゃなくてさ……」
脱線させまいと頑張るクミコ。……おいもさんって、絶対にSNSで炎上するタイプだよね。
「つまりおいもは、直接見ないでも魔力を感知できるってことだね」
「それがどうしたんや?」
「全国の新聞の訃報欄をチェックして、名前検索から写真や動画がでてくれば、この場で確認ができるっしょ」
手分けして動いても、おいもさんがいなければ魔力持ちかわからないから、クミコのこの方法はもっとも理にかなっていると思う。
だがしかし、これには一つだけ欠点があった。それは……
「でもさ、クミ。同姓同名の別人の画像がでてくるって場合もあるんじゃない?」
「その場合はあきらめるしかないよ。直接見るまでは確定できないから無駄足になるけど、それでも闇雲に探すよりは全然マシでしょ?」
ネットでローカル新聞をチェックして、お悔やみ欄に載っている名前で検索をする。そして画像がヒットしたら、おいもさんに魔力を感知してもらう。
全然マシどころか、うまくいけば一発ビンゴだ。考えうる最上の策だと思う。
「クミ、さすがすぎる。見つけて速攻で現地に行けばいいのね」
「それはいいんだけどさ……あまぐりちゃん連れて行くの?」
「う~ん、どうしようかと思っているんだけど」
「
ここなら住み込みのメイドさんもいるし、犬も猫も飼っているから、きっと寂しくないだろう。
しかしこのひと言を聞いたあまぐりは、私の胸にしがみついてきた。まるで人間の言葉を理解しているかのようだ。タケルが引っ張ってもクミコが撫でてもレナがくすぐっても、まるで接着したかのように動かない。
「もう……」
タケルはスッと私のうしろに回り込むと、そのまま抱きついてきた。背中に顔をうずめて腰に腕を回し、こちらもガッチリと離さない構えだ。
「ちょっと、なにするのよ」
「……」
「やだ、息がくすぐったいって。タケルやめてってば」
前からあまぐり、うしろからタケル。一匹と一人に前後からはりつかれて身動きがとれない。
なんだか予想外の行動に、顔が
「嬢ちゃん、モテ期やな」
「クミ、レナ、なんとかして~~」
「奥手なのに勇気をふりしぼって必死に愛を表現するタケちー。ああ、
と、うっとり眺めるクミコ。
「連れて行けばいいにゃ~」
「レナ?」
「ワンコは無理に引き離すと“分離不安症”とかになるにゃよ」
「そんな病気があるのか……」
「おいもちゃんが通訳してくれるんだし、連れて行っても大丈夫にゃと思うよ」
なるほど。おいもさんに任せておくのも手か。レナは普段会話にあまり参加しないけど、ちゃんと聞いて考えてくれている。ホント、頼りになる仲間だ。
で、まあ、それはそれとして……
「タケル離してってば~」
「ダメ。僕も分離不安になります!」
さらにギュギュッっと力を込めてくるタケル。一般的な女子ならこの時点で呼吸できなくなってるって自覚してくれ。
「はあ、尊いわ~」
「う~ん、ワイは一体なにを見せられているんや?」
……それ、私が言いたいのだけれども。
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