第11話・モサモサ族のトーテムポール?

 私たちが部屋に戻って来たのは午後5時頃。あわただしく騒がしく、そして腹立たしい1時間だった。


「この先どうするにゃ? また逃がすのにゃ?」


 質問を投げるだけ投げて、帰りにコンビニで買ったコンソメ味ポテチをほおばるレナ。これで夕食をキッチリ食べるのだから恐れ入る。


「逃がすのが嫌なら、あとは口封じしかないで。死人に口なしや」

「もう、殺すとかやめようよ……」

「ちなみに、『殺す』やなくて『殺せ』や。ワイには手も足もない。実行は嬢ちゃんたちの役目やで」

「……」

「できるのか? 安全な時代の裕福な国で育った嬢ちゃんたちに」


 ……そうか、それが無理だとわかっていたから逃がすしかなかったのか。


「そやからな、さっさとワイの身体を探して乗り移れるように……ってそうや、約束通りショタ坊の身体はもらうで」

「は? そんな約束してないよ」

「嬢ちゃん『なんでもいうこと聞く』いうたやろ。言質げんちもらっとるで」


「アホでしょバカでしょダメに決まってんでしょ。それにあの時助けてくれたのはレナじゃん。そんな約束は無効だよ」

「ならばさっさと死体を探してくれ。ワイに身体があればあんなヤツは即返り討ちやで。嬢ちゃんは生き返るし手を汚すこともなくヤツらを追い返せて、ワイは自由になれる。まさしくwin-winやないか」


 ……まあ、正論ではあるけど。

 

「でも、またすぐに攻めてくる可能性があるんじゃないの? 死体探しに行ってるあいだに、またタケルが襲われたりしないかな?」

「可能性の問題やが、かなり低いと思うで」

「と、いうと?」

「理由はどうであれ、あの男は嬢ちゃんたちに2連敗しとるんや。対策もなくまたすぐに攻めてくるアホでもないやろ」


 ……だとしても、相手の出方がわからない以上は、タケルを一人のままにしておく訳にはいかない。それはクミコも同じように考えたのだろう、その上でおいもさんに一つの提案を持ちかけた。


「あのさ、おいも。ちょっと聞きたいんだけどさ」

「なんやギャル子」


?」


「できるで。ただし単純に魔力を込めるだけや。魔法カードみたいに魔法そのものを込めるのは、今のワイには無理やな」


「魔力だけでもレナの球がとんでもないことになったって言うし、戦えるだけの武器が作れるんじゃないかってね」


 クミコにはなにか考えがあるみたいだけど、聞いてもニヤリと笑うだけだった。


「ふむ……それもひとつの手やな」

「それがあれば、アカリんがいなくてもウチと姉子でタケルを守れるんじゃない?」


 クミコはまず、ハンカチに魔力の付与を提案し、その効果を調べた。布を強化すると、柔軟さはそのままで強度が鉄板並に堅くなることがわかった。


 カッターでも刃がたたず、刺しても貫けず、そして燃えない。とりあえず全員の制服に、安全の為に魔力を付与したほうがよさそうだ。


「ソフトボールの球も感触はそのまま……なにかに投げて試したいけど、アカリん、壊れていいものある?」

「急にそんなん言われてもなぁ」


「あら、あるわよ」

「母さん!」


 いきなり現れる母。話に集中しすぎて、帰ってきたのに気がつかなかった。


「あ、おばちゃん、おじゃましてますにゃ」

「御無沙汰です」

「みんないらっしゃい。ケーキあるけど食べる?」

「もちろん食べますにゃ!」


 ……まだ食うのかレナ!


「壊れてよいものってなんですか? あ、ケーキいただきます」


 ブルータスクミコ、お前もか!


「壊れていいというか、壊してほしいんだけど……主人が送ってきたコレ」

「な、なんですかこれは……」

「南米の? モサモサ族だっけ? の、トーテムポール……?」


 疑問形だらけの母さん。まあ、仕方がない、私にもわけがわからないのだから。


「おっきくて邪魔だから壊しちゃって。このままだと粗大ゴミにも出せないのよ」

「ところで、おじさん今はどこなんです?」

「グレープ・パエリア……なんとかっていってたかな?」

「ああ、オーストラリアですね。グレート・バリア・リーフ」

「そうそう、それそれ。おいしそうよねぇ。さすがクミコちゃん」


 うちの親父はフリーカメラマンで、世界の風景を撮るのが仕事だ。昔は戦場カメラマンもやっていたけど、今は安全な国にしか行っていない。


 これは以前、何度もテロ組織に拉致された戦場カメラマンがいたらしく、そのあおりを喰らって思うように戦地にいけなくなったのが原因だそうだ。


 収入は減ったけど、母さんは『安心して留守を守れるのだから、むしろありがたい』と言っていた。……その代わり、変なお土産ものが届くと頭を悩ませもしていたけど。


 私はその変なお土産である、モサモサ族のトーテムポールを庭の隅っこに立てた。2メートルもある木彫りの柱は、極々一般的な家庭の庭において異質な存在感を放っていた。


「姉子、10%くらいの力で投げてみて。全力だと隣の家壊すかもだし」

「結構むずかしいにゃ。……こんな感じかな?」


 レナの投げた球は、軽く手首のスナップだけで投げるような、黄昏時たそがれどきの親子がキャッチボールをするくらいの球だった。


 ――しかし。


 バギッ!!! ドゴッ!!!


 その一投は、住宅街の景観を損ねるトーテムポールを粉々に破壊し、その先にあったコンクリートブロックに球がめり込んでいた。


「すごいにゃ。全力投球してみていい?」

「え~と……今はやめといてくれると嬉しいなぁ」

「あらあら、レナちゃんすごい球を投げるのね。大リーグが目標なんだっけ?」


 ……のんきな親で助かる。


「なるほど、このくらいの威力になるのか。質量も関係していそうだな……」


 クミコは口に手を当ててブツブツとつぶやきながら思考を巡らせると、突然『ちょっと買い物してくる』とぼんやり歩きだした。


「クミコちゃん、ついでに白菜と焼き豆腐お願い。買い忘れちゃった」

「母さん、そういうのは……」

「だって、みんな夕食べていくでしょ?」


「あ、いただきますにゃ!」

「白菜と焼き豆腐買ってきます!」


 と、急にビシッと敬礼してでかけるクミコ。……ま、いっか。そろそろタケルもくるころだしね。


 そして、夕食はみんなですき焼きを食べました。






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