琴宮アカリは黄泉がえりたい。~ゾンビなJKと異世界逃亡者のやんごとなき死体探し冒険譚。幼馴染を守るのは熱血乙女のたしなみです!~

猫鰯

第1話・超美人JK、交通事故で大股開き死


 ――幸か不幸かでいったら、どっちかわからない。


 きっとすぐにもネットニュースでは

【超美人JK、交通事故で大股開き死】

 とか、エロニートが食いつく見出しがおどるのだろう。



 私、琴宮ことみやアカリは、道路に飛び出た子犬を助けようとしてトラックにひかれた。運動神経には自信があったし、普段なら難なく助けていたはず。


 しかし、なぜか丸いものをふんでしまい、バランスを崩したところにトラックが……。


 そして私は吹っ飛ばされ、道路わきの街路樹に頭から突っ込んでしまった。情けなくもスカートは盛大にまくれ上がり、禁断の白三角地帯をおっぴろげていた。


 秋の空 落ち葉に芽吹く 白ぱんてぃ [琴宮アカリ・辞世の句]

 

 大股開き死。十七歳、花の女子高生の最後にしてはあまりにみっともない。



「マジか、スゲー音してたな」

「ねえ、死んでるの?」

「どうだろ、10メートル以上吹っ飛んでるし……あ、動いた」


 ガヤガヤと人の声が聞こえる。力をふりしぼってうす目を開けてみると、私を取り囲んでスマホのカメラを向けている野次馬ばかりだった。


 ってか、この状況で『ハイ、チーズ!』なんてシャッター音をだすなよ、バカなの死ぬの? 

 

「うわ、すげえ。足とかぐちゃぐちゃじゃん」


 コラそこの兄ちゃん、そういうひと言でパニック起こしてショック死するケースもあんだぞ。言葉選べって。


「君、大丈夫か? 今救急車呼んだからな」


 ……それ、カメラを向けながらいうセリフじゃないだろ、おっちゃん。


 こんな時でもつっこみ魂は健在なのか。って……ああ、目の前が暗くなってきた。

 呼吸をするのも辛くなってきて、私は誰にも届かないであろうか細い声でつぶやいた。


(はぁ、まだ死にたくなかったな……)


 ――その時。


(生きたいか?)


 つぶやきに返事をするかのように、私の右手からが聞こえてきた。


(……はい?)

(だから生きたいかって聞いとんのや!)

(そんなの当たり前で……)


 街路樹に突っ込んだときにたまたまつかんだのだろうか、いつの間にかテニスボールくらいの丸い石が手の中にあった。そして紛れもなく、その石が口を開きしゃべっていた。目をパチクリさせて私を見ている。


「——って、なんで石がしゃべるのよ?」


 驚天動地。私が血を吹きだしながらガバッと起き上がると、野次馬ギャラリーからも驚きの声や悲鳴が聞こえてきた。中には『ゾンビだ~』と叫ぶ子供の声もあった。


 ま、仕方がない。目の前で死ぬ寸前の人間が突然起き上がったら、私でもおかしな声がでるだろうし。


 一瞬にして遠巻きになった衆目しゅうもくの中、私は立ち上がりパンパンとほこりを払うと、すぐにその場を去ろうと思いくるりと背を向けた。


 ……が、ちょっとだけ思いとどまり野次馬ギャラリーに向き直る。


「え~と、お騒がせ? しました」


 と、ペコリと頭を下げた。どんなときでも礼儀は大事だ。


 し~ん……となる一同。歩行者用信号の“とおりゃんせ”が虚しく響く。


「あ~、それから……こんな可愛いJKの可憐なおパンティーをタダ見できたんだからありがたく思いやがれ!」


 と、野次馬ギャラリーをビシッと指差しながら虚勢をはり、私はその場を立ち去った。


 うしろから『うそだろ?』とか『足ぐちゃぐちゃだったじゃん』とか聞こえてきたけど、すでに普通に動けるし身体の痛みもなくなっていた。





「どさくさ紛れに自分のことを『可愛いJK』言うてたな」


 路地に入り、人気がなくなったところで石さんが話しかけてきた。


「……ほっといて下さい」


 雑踏から逃れて意識がはっきりしてくるにつれて、道端に咲いた白三角の恥ずかしさで顔が熱くなる。そして次に、自分の身体と奇妙なしゃべる石のことで頭が一杯になった。


「それよりあんたなんなの? なにがあったの? 私の身体、どうなっちゃったの⁉」

「まあまあ、落ち着きや〜。ワイは俗にいう異世界転移者や」

「はあ……?」


「そんでな、どうやら嬢ちゃんは特異点らしいねん」

「特異点って、なに?」

「特別な存在とでも思っとき。異世界から転移したのはワイの能力やけど、この場に呼び寄せたのは嬢ちゃんの力、みたいな感じやな」


 私が呼び寄せた? いやいや、ただのJKです。そんな力はない……と思うけど。


「嬢ちゃんはトラックにひかれて、本当なら死んどるところや」

「あ~、うん。だからなんで?」 


「ワイにふれたことで超回復魔力が供給されて、死んだか死んでないかわからんくらいのギリで助かったんやで」


「マジ……石さんが生き返らせてくれたの⁉」

「そやで。気持ちも落ち着いていたやろ? パニックを起こさないように精神を安定させる効果もあるんや」


 あの状況でつっこみを入れている余裕があったのはそういうことだったのか。


「あ~……」


「……」


「うわぁっ……」


「どないしたんや?」

「考えてみると、石がしゃべるってなんか普通にキモいな」

「キモいっておま……冷静になり過ぎや、ちと慌てとけ!」


 なんにしてもよかった。本当によかった。……生きていることがこんなに嬉しいなんて。


「しっかしなあ、不思議なんやが……よほど強いつながりでもなければ、こんな簡単に魔力供給なんてできるはずがあらへんのや」


「でも、接点なんてなにもないじゃん」


「多分やけど、な。過去か……もしくは前世か、ワイと嬢ちゃんはちょいとばかし深い関係にあったと思うで。今はようわからんけど」


 過去にこんな変な存在の記憶はないし、前世なんてわかるはずがない。そもそも深い関係ってなんかエッチくない? どういう意味にとればいいのよ。


 なんて考えていたその時、うしろからきた車のクラクションにビクッてなって、石さんを落としてしまった。


 ゴロゴロと数メートル転がり、道路わきの雑草の中にガサガサガサ……と音だけ残して見えなくなる。


 「あ……」


 ――その瞬間、身体中の力が抜けバタリと倒れてしまった。


 意識がすーっと薄くなって、それと同時に身体中に激痛が戻ってくる。


 ヤバイ、これは痛い、死ぬほど痛い。足がバキバキで肋骨が飛び出て口から吐血。頭痛に吐き気にめまいに生理。ああ、死ぬぅ……痛いぃ……。


「母さん、みんな、ごめんね。私は異世界にいって楽しくやっているとでも思って下さい……」


 遠のく意識と引き戻す激痛の中で、転がっていった石さんの声が聞こえてきた。


「無理やな。あのトラックは転生免許を持ってへんで」

「免許なんてあるんかい!」


 ……血をぶちまけ、つっこみながら飛び起きる私。


「あれ? 死んでない」


 またもや身体の痛みがなくなり、バキバキだった足も飛び出た肋骨も全てもとに戻っている。


 視線を感じて横を見ると、さっき助けた子犬が石さんをくわえていた。……ついてきたのか、この子。楽しそうにパタパタとしっぽを振っていて、なんだか妙に可愛い。


「ワイと離れると、トラックにひかれたダメージが身体に出てきて死ぬで。痛いで。マジ死ぬほど痛いで~」


「う、うん。なんかもう最悪に痛かったよ。……なんとかならないの?」


「今は無理やな、石やし。このままやと蘇生魔法も回復魔法も使えへん。簡単な無詠唱魔法をちょちょいと使える程度や」


 う~ん、なにが簡単でなにが難しいか全然わからないけど。


「要するに嬢ちゃんの現状維持で精一杯ってこっちゃ」

「じゃ、ずっとこのまま?」


「方法はあるで。よく聞きや、嬢ちゃん。ワイはな、身体があれば魔法が使えるようになるんや」


 なんか凄いことを言っている気がするけど、可愛い子犬がくわえた石がしゃべっている絵面えずらが強すぎて半分しか頭に入ってこない。


「そやからな、ワイが乗り移れる身体を探してくれ」

「はい?」

「そしたら礼に嬢ちゃんを蘇生したる。痛みも苦しみもなく完全復活やで。どないや?」


 なんと言うかさ、『どないや?』っていわれても答えはひとつしかない。むしろ断る理由を探す方が大変じゃん。私は頭をカクカクブンブンと縦に振って、全力で『YES!』と伝えた。


「ただし、条件が二つだけある」

「な、なんでしょう」


「一つ目は死んで48時間以内の外傷が少ないフレッシュな死体であること」


「死体にフレッシュとかあるんかい!」

「もちろんや。腐ってたらゾンビになってまうやないか」


 ……なんだろう、わけも分からず納得してしまった。


「生きていたらダメなの?」

「ダメやな。生きている人間、つまり意思があるヤツには、入ってもすぐに弾き出されてしまうんや」


「一つの身体に二つの意思は存在できないのか。……いしなだけに」

「誰が上手いことを言えと」


 でも、『死体を探せ』ってどうすればいいんだろ。それも傷が少なくて死後48時間以内とか難題すぎじゃない? 


 と思っていたら、更にハードルが上がるひと言が飛び出した。


「二つ目は魔力を持っていることや」

「はぁ……魔力?」

「かなりまれな存在や。魔法が使えるレベルの身体はほんま貴重やで」


 石さんは『役に立たんゴミ魔力持ちなら吐いて捨てるくらいおるけどな』と付け加えていた。


「そうはいうても、歴史上の人物でなにかを成しとげたヤツは大抵魔力待ちや。ナポレオンや曹操、家康、治虫もやな。あ、そうそう、ナイチンゲールも回復魔術の使い手やったわ。ヤツらは隠しているだけで、実は魔法使いなんやで」


「ふ~ん。んで、魔力持ってる人間を探す方法なんてあるの?」


 石さんはニヤリと口角を上げると、『もちろんや』とドヤ顔を決めてきた。子犬にくわえられた石さんの得意げな顔が、妙にあざとくてムカつく。


「そや、条件がもう一つあったわ」

「二つだけっていってたのに……」


 石さんは『もっとも大事な要素や』といいながら、声のトーンを落とした。余程重要なことなのだろうか。

 

「んで、なに?」

「それはな……」


 ゴクリ……


「イケメンであることや!」

「めんどいわ!!」


 かくして、黄泉がえりJKの私とこの奇妙な石さんとの、やんごとなき死体探しが始まるのだった。





 あ、そうそう。ネットニュースに【ゾンビJK、交通事故で大股開きの黄泉がえり】と見出しがおどっていました。


 ――幸か不幸かでいったらマジ最悪です。






――――――――――――――――――――――――――――

キャラクターイメージイラスト:琴宮アカリ→https://kakuyomu.jp/users/BulletCats/news/16818093089435956681


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