麦茶

 こうも暑い日が続くと、なんだか溶けそうになる。

 冷凍庫から氷を取り出し、ガリガリと喰む。

「まーた氷食べてら」

 リビングに入ってきた弟が、私を見て少し引いたように呟く。しっかり聞こえてるけどな。

「何、文句あんの」

「べーつにぃー?」

 私を押しのけるようにして、冷蔵庫からポットに入った麦茶を取り出す。

 コップも使わずにラッパ飲み。育ちの悪いやつだ。同じ育ちだけど。

「てか聞いた?」

 汚いゲップをひとつして、弟は臭い息を私にかけてくる。カレー食べたなこいつ。

「兄貴、また別れたらしいよ」

「うっそ、許せない」

 身内贔屓を加えたとて、決して顔がいいとは言い難い兄。

 どうしてこんなにもモテるのか分からないが、昔から相手を取っ替え引っ替え。いつも運命の相手に出会ったと吐かし、大抵すぐ別れるのだ。

「賭け、俺の勝ちだね」

 麦茶を冷蔵庫にしまい、左手を差し出してくる。

 兄に相手ができるたび、弟とはいつ別れるか賭けをしている。

 薄情な弟は大抵2-3ヶ月。私は半年とか1年とかに賭けて負けるのが常。兄も私も学習しないな。

「今度ね。次こそは長く続けばいいんだけど」

「無理無理。ああいうのはずっと続くから!」

 弟はバカにしたように笑いながら、手を左右に振る。

「案外、俺や姉さんのが先に結婚するかもよ」

 そう言ってリビングを出ていく。

 私は知ってるぞ。お前に1年以上続いてる彼女がいることを。

 弟が出ていったドアに向かって、思いっきり中指を立ててやった。

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