第12話 彼女は尊く俺はださく……

 すっかり風邪が治った。


 これも東都が看病してくれたおかげかな。


「いらっしゃいませ」


 カフェ・プレシャスでバイト中、俺の視線はついつい東都へといってしまう。


 あー完全に惚れてるな、俺。


「せーんぱいっ」


 東都が俺を呼ぶと、軽く跳ねるように隣に並ぶ。


「手を動かさずに目が動いてますよー。そんなに私の働く姿は魅力的ですかー?」


 うっ。バレてる。


 女性は男性の視線に気が付いているという話を聞いたことあるが、本当だったみたいだ。


「テストまであと三日だってのにバイトしてて良いもんかねー」


 素直に働く姿が魅力的とは言えなかったため、ちょっと嫌味風な味付けの言葉をかけてやる。


「うっ!!」


 どうやら大ダメージだったらしい。


「そ、そうだよね。テストまで三日しかない……でもでも、バイトはしたいし……ああーん」


 唸っている姿を見ると申し訳ない気持ちになる。


「なんかごめん」


「うう……大和撫子な私は傷つきました。これは傷つきましたなやつですね、はい」


「大和撫子は自分で大和撫子って言わないぞ、きっと」


 しかし、ふむ。


 バイト終わりに勉強をしたりしているが、それだけじゃ心許ない。


 週末は店長から休みを頂いている。というか、「学生の本分は勉強だ」ってことで強制的に休みにさせられた。


 ここは一肌脱ぎますかね。


「……千田くん? どうして服を脱ごうとしているの?」


「東都のために一肌脱ごうと思って」


「千田くんの脳内でなにがあったのかはわからないけど、おそらく意味合いは違うと思うよ」


 ジト目で見つめられてしまう。


「いや、週末に図書館にでも行ってふたりで勉強──」


「行くっ!」


 言い終わる前に返事をくれた。


「か、勘違いしないでね。勉強したいんじゃなくて、千田くんと一緒したかったんだからねっ!」


「ツンデレ下手かっ!」


 なんでこの子はひたすらに俺をドキドキさせてくるんだよ。


 東都は自分の言ったことの意味合いを理解したところで、「すみませーん」とお客様に呼ばれ、顔を赤くして接客に行った。


「きゃっ」


 短い悲鳴が聞こえてくると共に、パリンとカップが割れる音が聞こえてくる。


 反射的に振り返ると、お客様の方が東都へ、「すみません、すみません」と謝っていた。


 東都は、「お気になさらないでください」と言っているのが伺える。


「どうかなされましたか?」


 フォローに入るとお客様が事情を教えてくれる。


「すみません。私がコーヒーをこぼしてしまって……」


「お客様の方にはこぼれておりませんか?」


「こっちは大丈夫です。本当にすみません」


「いえ、新しいものを用意しますので少々お待ちください」


 東都はキッチンに向かう。


 店長も一部始終を見ており、なにも言わずに新しいコーヒーを提供した。


 お客様へ運び終えて一件落着。


 に、見えるけど、そうじゃないな。


 ガシッと東都の手首を軽くだけ掴む。


「千田くん?」


「足、怪我してんだろ。ちょっと来い」


 有無言わず、彼女をバックヤードへ連れて行き、椅子に座らせた。


「あ、あの……」


「歩き方が少し変だったからな。無理してんじゃないかって思って」


「い、いや……」


 強制的に靴と靴下を脱がしてやる。


「……」


「……」


「あっれー? 綺麗な足―?」


 そりゃもう、見事に綺麗な足だった。


「なんでぇ? ええ? 歩き方、ええ!?」


「いや、カップの破片が散らばっていたから、ちょっと歩き方がおかしかったのかもだけど……」


「うそん……」


 なにこのださい感じ。俺くそださじゃん。


「陽。東都さんの容体はどうだい?」


 心配してくれた店長がバックヤードに来てくれる。


「陽が焦るレベルだ。心配だよ」


 うん。全然なにもなってなかったっす!


 とか言える状況じゃねぇ!


「あははー! これは俺が東都を家まで送るしかないっすー!! あははー!!」


「そ、そうか。だったら店のバイクを使って良いから、東都さんをよろしくな」


「あははー!! もう、ほんと、色々すみませーん!!」


 謝るしかないよね。ほんと。


 俺の様子を見て、東都はくすくすと笑っていた。

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